ベネズエラ、デノミ実施 通貨10万分の1に切り下げ
【サンパウロ=外山尚之】南米ベネズエラ政府は20日、通貨の単位を5ケタ切り下げるデノミ(通貨単位の切り下げ)を実施した。インフレが止まらないなかでの苦肉の策だが、マドゥロ大統領は最低賃金を約35倍に引き上げるとも発表した。場当たり的な政策で、さらなる混乱は必至だ。
「我々は大きく勝利し、経済の回復と成長、繁栄のための旗を立てる」。マドゥロ氏は19日、デノミの成功に自信を見せた。これまで準備不足で2度延期したが、今回は20日を休日としたうえで送金やカードの決済などの金融システムを全国的に一時停止した。
デノミは2008年以来。現行の10万ボリバルを1ボリバルソベラノと交換するほか、同国が独自に発行する仮想通貨「ペトロ」とのペッグ制を導入する。ベネズエラ政府の説明によれば1ペトロ=3600ボリバルソベラノとなる。
ペトロは原油価格に連動し、1ペトロあたり60ドル(約6600円)の価値があるとしている。現在の中央銀行の公式為替レートの水準からすると、約95%の切り下げに相当する。実態を反映しない公式レートによる為替管理を諦め、闇レートに合わせたとも読める。
ベネズエラでは外貨不足と物資の欠乏でハイパーインフレが止まらず、国際通貨基金(IMF)は年内にもインフレ率が年率100万%にも達すると予測する。マドゥロ政権は世界最大級の埋蔵原油を担保とした仮想通貨とひも付けることで、通貨の信認を得たい考えだ。
ただインフレが沈静化する兆しはない。マドゥロ政権は17日、デノミに合わせて最低賃金を月額1800ボリバルソベラノ(約3300円)に引き上げると突如発表した。現在の520万ボリバルから35倍の水準だ。
資金に余裕がない中小企業に対しては補助金を支給するとしたが、原資がないなかで通貨の乱造を今後も続ける形となる。首都カラカスではマドゥロ氏の発表後、混乱状態の人々が買い占めに走り、物価上昇が加速したという。マドゥロ政権は世界一安いとされるガソリンへの補助金削減や消費増税などの引き締め策に着手していたが、自ら台無しにした。
ロイター通信によると、南の国境を越えてブラジルへ逃亡するベネズエラ国民が急増している。ブラジル軍が国境の警備強化に乗り出し、18日までに女性や子どもを含む約1200人がベネズエラに戻ったという。
国民の窮状はさらに進みそうだが、独裁体制は揺らいでいない。マドゥロ氏は4日に起きたドローン(小型無人機)による自身の暗殺未遂に関与した疑いがあるとし、不逮捕特権を剥奪して野党議員らの身柄を拘束した。
逮捕者には軍関係者も含まれるが、政権と軍幹部は密接につながっており、クーデターに結びつく可能性は低そうだ。野党勢力は21日にゼネストを呼びかけるが、政府が監視を強めるなか、国民が応じるかは不透明だ。