変わるひきこもり支援 就労から居場所づくりへ
中高年のひきこもりの人が増える中、自治体の支援が変わりつつある。一方的に就労に導くのではなく、当事者団体と連携して居場所をつくり、一人一人に応じた「小さな一歩」を踏み出せるようにするのが特徴。国も財政面で後押しをする。
「外は雨ですが、皆さんの心の天気はどうですか?」。7月、札幌市中心部の公共施設。車座になった30代から50代の男女十数人に交じり、男性スタッフが声を掛けた。
ひきこもりの人が集う「よりどころ」。NPO法人「レター・ポスト・フレンド相談ネットワーク」(田中敦理事長)が市の委託で6月から月1回運営する、全国でも珍しい「公設民営」の居場所だ。スタッフの多くはピアサポーターと呼ばれるひきこもり経験者。当事者の目線で、参加者の悩みに耳を傾ける。
白石和美さん(30代、仮名)は「ちょっとでも人と話せるようになりたい」と参加した。中学時代から友だちづきあいが苦手。大学卒業時は就職氷河期のまっただ中で「自分のような人間が働くのは無理」と自宅にひきこもった。パソコンや漫画で一日を過ごし、気づけば16年がたっていた。
「このままではまずい」。そう思ったのは父親の定年退職がきっかけ。市の無料相談会で、よりどころを紹介された。この日はトランプや雑談をするうちに少しずつ打ち解け、帰る頃には心の天気が「雨」から「曇り」に変わっていた。
国のひきこもり支援はこれまで就労が中心だった。2000年代初めにニート(若年無業者)という言葉が使われ、各地の地域若者サポートステーションで面接指導や職場体験を実施。対象は原則39歳までで、短期間に就職率を上げることが主眼だったため、中高年層や生きづらさを抱えた人たちがこぼれ落ちた。
昨年度、札幌市に家族らから寄せられた約千件の相談のうち約3割は40代以上。市子どもの権利推進課の菅原純弥係長はレター・ポストとの連携について「当事者には『行政に相談しても何かを強制される』との警戒心が強い。まずは足を運んでもらうことが必要だった」と説明する。よりどころには精神保健福祉士らも同席し、本人の意向をくんだ上で、必要な支援につなげたい考えだ。
地域での取り組みは兵庫県や熊本県、浜松市などにも広がる。厚生労働省は本年度から自治体に補助金を出すなど、関係機関とのネットワークや居場所づくりを支援する。レター・ポストの田中理事長は「国の就労支援は必ずしも本人のニーズと合わず、39歳という年齢制限もひきこもり長期化の一因になった」と分析。「居場所で力を蓄え、自ら一歩を踏み出そうとするプロセスこそが重要だ」と強調する。
〔共同〕