セレクションセール、競馬場外にも「晴れ舞台」
中央競馬の開催が大都市圏を離れる夏は、北海道の緑のターフにサラブレッドの蹄(てい)音が響くシーズンでもあります。真夏の蒸し暑さからしばし離れられる函館や札幌への週末の出張は、私を含めたラジオNIKKEIの競馬実況アナウンサーにとっても愛すべき出張です。この夏はそんな出張後の週明けに、今まで見たことのない光景を北海道で見ることができました。そんな経験をつづってみたいと思います。
■サラブレッドの故郷の先に
函館記念(G3)を函館競馬場で見届けて一夜明けた7月16日、私は日高自動車道を走る車の助手席にいました。翌日行われる競走馬のセリ市場「セレクションセール」(日高軽種馬農協=HBA=主催)を生中継する競馬専門局「グリーンチャンネル」での司会を仰せつかり、いつもより長い出張をすることに。新千歳空港で合流した中継スタッフと、新ひだか町にあるセリ会場、北海道市場へ向かっていたのです。
終点の日高厚賀インターを降りた車は一般道を走っていきますが、見渡せば牧場の看板があちこちに。競馬場やウインズで配られているレーシングプログラムで見た記憶のある牧場の名前も多くあります。牧場の看板を見るやいなや「○○牧場……。あのG1を勝った馬の生産牧場ですよね」という会話で盛り上がる道中でした。
午後に北海道市場に入ると、セリ会場に隣接する広い芝のスペースでは上場を翌日に控えた1歳馬たちがひかれています。周囲にはいつもは競馬場やトレセンでお会いする調教師の姿も多く見られました。上場馬の情報が記されたカタログを片手に、ダイヤの原石を求めて真剣に馬に見入っていました。
今では「セレクトセールの翌週」に行われる市場として定着したセレクションセールの最大の特徴は、実際に牧場まで選定委員が足を運んで実馬検査し、選考委員会が協議する点にあります。今年上場された198頭は文字通り「セレクション」された各牧場自慢の1歳馬たちです。
現3歳世代ではジェネラーレウーノ(京成杯勝利)やメイショウテッコン(ラジオNIKKEI賞勝利)などが取引され、近年ではG1・Jpn1を10勝したホッコータルマエ、2016年の高松宮記念を制したビッグアーサーなどもこのセールの出身。近年の市場の活況も相まって、昨年はセール歴代最高の売上総額28億円強、落札率も初の8割超えという活況を呈しました。
当日、私の主な仕事はセリ開始前と、終了後の番組進行。午前10時にセリが始まると、会場内から大きな声とハンマーの落ちる音が聞こえてきます。映像では何度も見たことがある光景ですが、いざ実際に現場で見たときの「迫力」は段違いでした。
■生産者にとって大きな名誉
セリの間の私の仕事は、高額で落札された馬の関係者へのインタビュー。といっても、お話をうかがうのはセレクトセールのように落札者ではなく、落札された馬の生産者。どの馬の関係者にも共通していたコメントは「こんなに高く評価していただいて、高値で落札していただけて本当にうれしいです」「ここに上場することを目指して、手塩にかけて育ててきた馬。価格が上がっていくのを見ているときは夢見心地でした」といったもの。やはり選ばれてこのセールに上場され、高値で落札されることは大きな名誉なのだ、と改めて感じました。
そして、インタビューさせていただいた生産者のみなさんに共通してかけてもらった言葉が「どこかで聞いたことがある声だなあ、と思ったら」「いつも実況、ラジオで聞かせていただいていますよ」。我々の実況をこれだけ聞いていただいているのかと、身の引き締まる瞬間でした。
生産者がこれほどの熱い思いと労力を注いで、馬と向き合っている――。わかってはいるつもりでしたが、実際にお話を聞き、肌で感じられたのが今回の仕事の一番の収穫でした。その集大成がレースであり、そんなレースを実況する。こうした思いに応えるためにも、断じて恥ずかしい実況はできないと、仕事に向き合う気持ちを新たにできる素晴らしい機会でした。
■活況続くセリ市場
上場頭数が前年より30頭以上少なかったこともあり、今年のセレクションセールの総売り上げは21億7440万円(税抜き、以下同)と前年に比べて減ったものの、3年連続で20億円を突破。落札率も77.2%と、8割にわずかに届かなかったものの、今世紀に入って2番目に高い水準でした。セレクトセールでの「爆買い」が話題となっている昨今ですが、セリ市場の活況はあらゆる場所へ波及しています。
20日からは同じ北海道市場で1歳馬の「サマーセール」が開催されます。今年から新しい試みとして、初日に「サマープレミアムセール」と銘打った選抜市場が組まれました。ここに上場される馬たちも、セレクションセール同様に選定基準をクリアした馬たちから選抜されました。
実は、このサマープレミアムセールもグリーンチャンネルで生中継されます。私は再び、司会の大役を仰せつかりました。よい仕事をしつつ、数年後に競馬場を沸かせてくれるような馬たちをめぐる、活発なセリを見届けたいと思います。
(ラジオNIKKEIアナウンサー 大関隼)