有力種牡馬、後継レースがいよいよ本格化
中央競馬の夏季開催も後半戦を迎えた。夏競馬といえば2歳戦。昨年はロードカナロア、オルフェーヴルという元スターの産駒が注目を集めた。今年は注目度が高くはなかったが、目玉候補だったジャスタウェイの産駒が快進撃をみせる。5日までに5頭が勝ち星を挙げ、うちラブミーファインは函館2歳ステークス(7月22日、G3・芝1200メートル)で2着。8月4日のダリア賞(新潟・芝1400メートル)ではアウィルアウェイが圧勝。2戦2勝とした。ロードカナロア産駒も5日までに既に9勝と前年の勢いを保つ。ジャスタウェイは父ハーツクライの、ロードカナロアは父キングカメハメハのそれぞれ代表産駒といえる。両馬が種牡馬としてブレイクしつつある現状は、近年の競馬界をリードしていた有力種牡馬の後継レースが、いよいよ本格化したことを告げる。
■ジャスタウェイ産駒、早々とオープン馬2頭
ジャスタウェイ産駒の勝ち馬第1号となったアウィルアウェイ(牝、母ウィルパワー)は6月9日、阪神の新馬戦(芝1200メートル)が初戦。母方は短距離血統で、陣営は初戦に1200メートルを選んだが、スタートで出遅れ、序盤は追走に苦しんだ。だが、エンジンがかかると徐々に位置取りを押し上げ、直線で先行馬をのみ込み最後は2着に2馬身差をつけた。2戦目のダリア賞は距離が1400メートルに伸び、序盤の追走は少し楽になった。初戦同様、途中から押し上げるレース運びで、騎手が軽く促した程度で快勝。ミルコ・デムーロ騎手は「スピードがすごいし、追い出してからの反応もよかった」。今後の課題は距離だが、1600メートルの桜花賞は狙えるか。
函館でデビューしたラブミーファイン(牝、ヤマノラヴ)は初戦が1800メートル、2戦目が1200メートルという珍しい臨戦過程を踏んだ。初戦は2番手から抜け出し完勝。2戦目は1200メートルの緩みない流れを3番手で追走し、直線で一度は抜け出したが、ゴール寸前でアスターペガサスの追い込みの前に鼻差で惜敗。タイムの1分9秒4は、2歳コースレコードと0秒2差。新馬戦は7頭立てだったが、当時の2、3着馬はいずれも次戦で勝ち上がっており、この点もレベルの高さを示す。
牡馬の素質馬も現れた。5日に小倉でヴェロックスが芝1800メートルの新馬戦を圧勝。好位置から直線で楽に先頭に立ち、最後はムチも使わず2着に8馬身差。タイムの1分48秒7も初戦としては上々だ。母系から中距離以上での活躍が期待される。ジャスタウェイは3歳時にもG3勝ちがあるが、本格化は4歳の秋から。天皇賞・秋でジェンティルドンナを圧倒し、翌年春はアラブ首長国連邦・ドバイのG1、ドバイ・デューティフリー(現ドバイ・ターフ=芝1800メートル)と安田記念を連勝。5歳秋にジャパンカップ2着もあり、距離に融通も利くが、2歳戦序盤でスピードのある産駒が出ている点は、早熟さを求められる昨今の競馬事情を思うと心強い。
■存在感薄いディープの孫世代
まだ、現2歳世代が走り出して2カ月余りだが、世代限定の種牡馬ランクをみると、ジャスタウェイが前週の4位から4、5日の2勝で2位に進出。首位は9勝のロードカナロアで、2年目と新顔が上位を占めた形だ。まだ中距離戦が少ない時期だが、2016年産組が3世代目となるルーラーシップ(父キングカメハメハ)も6位につけている。ロードカナロアは今年の3歳牝馬二冠のアーモンドアイ、ルーラーシップは昨年の菊花賞馬キセキと、既にG1勝ち馬を出しており、その意味でキングカメハメハは既に、複数の後継種牡馬を出したと言える。ジャスタウェイ産駒が今後も現在の勢いを保ち、重賞路線をにぎわすことになれば、ハーツクライも孫世代が活躍する足場を築くことになる。キングカメハメハ、ハーツクライは01年産の同世代で、今年17歳だから種牡馬としては既に晩年。後継種牡馬の出現が待たれる時期に、次を担うエースと期待された馬が結果を出しているのだ。
問題はディープインパクトだ。ディープインパクトはキングカメハメハ、ハーツクライより1歳下の16歳。種牡馬入りはハーツクライと同じ07年だが、種付け数は圧倒的に多く、09年以外は年間200頭を大きく超える。種牡馬成績も12年から6年連続で首位。今年も2位を大きく引き離しているが、難点は後継種牡馬の手薄さだ。
そもそも、G1を勝った産駒のうち牡馬は17頭で、15頭の牝馬を数では上回っているが、2000メートル以上のG1を勝って種牡馬入りした馬は現在5頭だけ。現時点で評価の基準となるのは、13年に種牡馬入りした前年の日本ダービー優勝馬ディープブリランテと、同3着のトーセンホマレボシだけとなる。両馬とも初年度産駒は既に4歳だが、ディープブリランテはセダブリランテスがG3を2つ勝ったのが目立つ程度。トーセンホマレボシは今年の種付け料が50万円と低価格で、むしろミッキースワロー(セントライト記念=G2=優勝)を出したのはヒットといえるが、キングカメハメハ、ハーツクライの孫世代と比べれば、存在感が薄いことは否めない。
向こう数年に視野を広げると、ディープ産駒の種牡馬は次々に産駒を送り込んでくる。まず来年には13年日本ダービー馬キズナの子がデビュー。フランスと香港でG1を勝ったエイシンヒカリは、初産駒が今年誕生し、2年後に実戦を迎える。昨年の3歳三冠を分けたディーマジェスティ、マカヒキ、サトノダイヤモンドのうち、皐月賞優勝のディーマジェスティは昨秋に引退し、今年から種牡馬入り。残る2頭より早い21年には産駒が登場する予定だ。ディープ系の種牡馬に対する評価は、社台スタリオンステーションで供用され、種付け料も今年350万円と、ある程度の水準の繁殖牝馬が集まるキズナが試金石となる。ただ、マカヒキやサトノダイヤモンドの産駒が走るまでは、評価を下すのは早いかもしれない。
■多様性のキンカメ、成長力のハーツ
キングカメハメハ、ハーツクライ産駒の種牡馬と種牡馬候補もみてみよう。キングカメハメハの場合、15年の3歳二冠馬ドゥラメンテ、ダート路線で息長く活躍したホッコータルマエは今年、最初の産駒が生まれた。11年日本ダービー3着で、ダートG1勝ちもあるベルシャザールは既に産駒が競走デビュー。この後も、現役で昨年の日本ダービー馬レイデオロが控える。レイデオロは、サンデーサイレンスの血脈を全く持たない点がロードカナロアとの共通点で、国内の多数派となったサンデー系牝馬を集める上では極めて有利だ。一方、ハーツクライはジャスタウェイ、13年日本ダービー馬ワンアンドオンリーがいる程度だが、この後は4月の大阪杯で待望の初G1を制したスワーヴリチャードが待つ。左回りが得意で、東京の天皇賞・秋やジャパンカップでタイトルを重ねれば、ジャスタウェイに続く存在に浮上しそうだ。
キングカメハメハ産駒は多様性が特徴で、短距離やダートで早くから活躍馬を出し、遅れてクラシック路線でもドゥラメンテやレイデオロが出現した。しかも、いち早く種牡馬入りしたルーラーシップは、菊花賞馬キセキを出した。ジャンルを問わない適応能力は強みだ。一方のハーツクライは自身が4歳暮れの有馬記念で初めてG1を制しており、産駒にも晩成型が多い。代表産駒のジャスタウェイも4歳秋から一気に超一流に成長した。2歳戦に重きを置く現在の競走体系に合わない面もあるが、長いスパンでの活躍を期待させるタイプだ。
こうした点はディープインパクト産駒と対照的で、同産駒、特に牡馬は4歳以降の成長力に疑問を感じさせている。象徴的なのがサトノダイヤモンドの昨年以来の不振で、同期のディーマジェスティも日本ダービー3着後は、相手の軽いG2を1勝しただけ。マカヒキも3歳秋の凱旋門賞遠征(14着)から帰国後は、2着もない。
7月9、10日に行われた「セレクトセール」(日本競走馬協会主催)で、ディープインパクト産駒の売却総額が38億1900万円(税抜き、以下同)で、前年を9億7800万円も下回った。超高額馬が出なかったためだが、売却頭数は同じ35頭だから相当な落ち方だ。一方、ハーツクライは昨年より5頭少ない26頭の売却頭数で総額は1400万円減っただけ。キングカメハメハ産駒は売却16頭(前年比1頭減)で、総額は前年を3億6900万円も上回る13億6200万円に急伸した。この数字は、既に幕が開いた有力種牡馬の後継レースの流れを反映した面もある。こうした点からも3頭の孫世代の戦いから目が離せない。
(野元賢一)