技能実習生の失踪7000人 駆け込み寺、元難民が奔走
ドキュメント日本
外国人技能実習生の失踪が後を絶たない。受け入れ先企業とトラブルになり、姿を消すケースが目立ち、2017年は7000人を超えた。人手不足を背景に増加が予想される外国人の就労機会。失踪した実習生の姿からは今後、解決しなければならない課題が見えてくる。福島県郡山市にある実習生の「駆け込み寺」を訪ねた。(覧具雄人)
JR郡山駅から車で30分ほどの住宅地。古びた2階建ての木造住宅に十数人のベトナム人が暮らしている。6月下旬のある日、1階の和室では数人の若者が教科書を広げ、漢字などの勉強に取り組んでいた。
3月上旬に入居したというベトナム人女性(36)に話が聞けた。16年4月に来日。実習先の山形県内の縫製工場での勤務実態は過酷だった。1日14~15時間働いて休日は年に7日だけ。「仕事が遅い」などと責められ、帰国するよう強く迫られたという。
来日費用を払うため銀行から100万円ほど借金しており、ベトナムの賃金水準では返済できない。祖国に残した10歳と8歳の子供のためにも、日本に残らなければと会社の寮を逃げ出した。
長時間労働、強制帰国の恐怖、上司や同僚からの暴力――。この施設で生活するのは、様々な事情で実習先から避難した10~30代のベトナム人の男女だ。岡部文吾さん(36)が経営していた市内の飲食店をたたみ、1月に受け入れを始めた。
長年空き家だった民家を協力者が提供。約100万円をクラウドファンディングで集め、改修した。収入がない実習生から食費や宿泊費を徴収するのは難しい。支援者からの寄付を除けば費用の大半は持ち出しだ。
岡部さんの本名はファム・ニャット・ブンという。5歳のとき家族とベトナムを脱出、マレーシアの難民キャンプを経て8歳で来日した。「異国で居場所がない実習生を放っておけなかった」
だが、一時的な保護は根本的な解決にならない。多くの実習生は「日本で働き続けたい」と希望するが、技能実習制度では自らの意思で職場を変えることができず、留学生と違いアルバイトも認められていない。
岡部さんらは保護した実習生について入管に通知したうえ、別の職場に移れるよう日本やベトナムの関係機関と交渉している。これまでに実習先の変更が認められたのは2人。10人以上は新たな実習先が見つからない。
働けない間の生活費を確保しようとハローワークにも掛け合い、4人は失業手当を受けられるようになった。ただ、以前の勤務先が申請に必要な書類を出さないなど、手続きが難航することの方が多いという。
実習生側が就労条件などを十分理解しないまま来日したことが原因の失踪もある。法務省が17年に元実習生らに失踪した理由を聞いたところ賃金面の不満が目立ったという。失踪後に不法就労などで摘発されるケースも少なくない。
施設は既に満員状態だが、岡部さんのもとにはSNSなどで施設を知った実習生から月30~40件の相談が寄せられる。
労働力不足解消の一翼として期待される技能実習生。だが、トラブルを抱えたとき、その立場はあまりにも弱い。外国人を受け入れる体制の脆弱さが垣間見えた。
■失踪者40%増 企業の法令違反背景に
法務省の在留外国人統計によると、2017年末時点で日本にいる実習生は27万4千人で前年より20%増えた。一方、職場から失踪する実習生も増加傾向。法務省によると、17年の失踪者は7089人で前年比40%増だった。
厚生労働省は17年に調査に入った5966事業場のうち4226事業場で違法残業や賃金未払いなどを確認。失踪者が増える背景には実習先の法令違反がある。
外国人技能実習機構(本部・東京)は、実習先で不当な扱いを受けた人のために旅館などを一時宿泊先として提供しているが、利用は7月19日時点で10件にとどまる。
外国人労働者問題に詳しい鈴木江理子・国士舘大教授は「機構が宿泊先を提供することが実習生にほとんど知られていないのではないか。実績のある民間の保護施設と連携することも必要だ」と指摘した。
コロナ禍で苦境にあえぐ人々の姿や、高齢化が生み出した社会のひずみなどに焦点を当てるコラムです。