幾多の坂越え、長崎でフルマラソン 五輪と同年開催へ
原爆投下75年の節目 世界に平和を発信
東京五輪・パラリンピックが開かれる2020年は、原爆投下から75周年という節目の年でもある。長崎市は世界平和と核廃絶を願う「長崎平和マラソン」を五輪と同年開催しようと準備を進めている。坂が多い長崎でのフルマラソンはランナーには高難度だが、警察やバス業界などがコース設定で連携。関係者は「東京五輪と足並みをそろえて世界に平和のメッセージを発信したい」と意気込む。
「長崎市でのフルマラソン開催は、世界中の人と力を合わせて核兵器を廃絶するという大いなるチャレンジにも通ずる」。7月17日、長崎市で開かれた平和マラソン実行委員会の初会合。田上富久市長は設立趣意書の中でこう宣言した。メンバーには長崎平和推進協会をはじめ、スポーツや経済などの専門家ら計44人が名を連ねた。
長崎市は1995年、被爆50周年の事業としてハーフマラソンを開催。2011年には初のフルマラソンが長崎県佐世保市で行われるなどしたが、長崎市内でフルマラソンの大会が開かれたことはまだない。
背景にあるのが「坂の街」とも呼ばれる独特の地形だ。長崎大の杉山和一元教授によると、市街地の約4割が傾斜度10度以上の急斜面。広い道が整備しづらく、交通渋滞も深刻だ。杉山元教授は「フルマラソンには向いていない土地」と言い切る。田上市長が「大いなるチャレンジ」としたのも、実現へのハードルの高さの裏返しだ。
ただ、市民らから開催を求める声は根強く、田上市長は15年、3期目を目指す市長選で「被爆75年の平和マラソン開催」をマニフェストに掲げた。当選後に協力を要請した長崎県警からは「交通規制による影響を小さくするための工夫が必要だ」と助言を受け、市も交通量の調査に乗り出すなど検討を進めている。
実行委には県バス協会など交通関係の業界団体も広く参加。長崎市民は普段から公共交通機関を使うことが多く、交通規制時のバスルートの変更やその周知が大会成功の鍵となるからだ。
こうした各機関の連携を経て練り上げられた現在のコース案は、折り返し地点7カ所、高低差約60メートルとかなりの高難度。それでもランナーは爆心地周辺を出発し、世界遺産や港の近くを通過する予定で、スポーツに打ち込める平和な日常の尊さや、長崎の歴史に思いを巡らせて風を切ることができそうだ。
開催日は2020年11月29日を想定している。市担当者は「五輪・パラリンピックが平和の祭典であるように、これまで実現が難しかった長崎市でのフルマラソンを核兵器廃絶と世界の平和の実現に向けたメッセージにしたい」と意気込む。