iPSでパーキンソン病治験 2022年にも国に承認申請
高橋・京大教授
京都大学は30日、世界初のiPS細胞を使ったパーキンソン病の医師主導の臨床試験(治験)開始に関する記者会見を開いた。京大病院の稲垣暢也・病院長、高橋良輔・脳神経内科長、京大iPS細胞研究所の高橋淳教授が出席した。主な質疑応答は以下の通り。
――治験の意気込みを教えてください。
「論文を書くのももちろん重要だが、患者を治してこそという思いがある。その意味でようやくスタート地点に立てた。これから積み上げてきたものがいよいよ試され、患者や病気の審判を受ける。非常に厳粛な気持ちだ」
――7例の治験はいつ始めるのですか。
「最初の1例は今年中に治療に入りたい。京大病院にかかっている患者の中から選定中だ。2例目以降は全国から応募頂いた中から選ぶ。一般から募集するのは6例で、詳細はホームページで公表する。パーキンソン病の患者は国内に15万~20万人いる」
――国の承認を得る目標時期は。
「7例のデータをもとに条件付き承認を得られるようにしたい。2022年に2年間の患者の観察を終え、そこからデータを集めて承認申請するのが最速のシナリオだ」
――iPS細胞でやることの意義は。
「細胞移植によりパーキンソン病がすべて解決するとは思っていない。治療の有力なツールができ、選択肢が広がる。他の治療法と組み合わせ、より根治に近づけられると思っている」
――根治は難しいのですか。
「脳内で減ったドーパミン神経を植えるが、病気の原因となる異常なたんぱく質が蓄積する原因を取り除いているわけではない。病的な状態を改善できなければ100%根治とは言えない。病態メカニズムの研究なども進んでいるので、将来は原因を止めることもできるかもしれない」
――なぜ他人の細胞由来のiPS細胞を使うのですか。
「患者自身の細胞を使うにはコストや手間、時間が必要だ。研究ではなく治療薬として開発するためには、現実的な部分を避けられない」
――移植する細胞はHLA(免疫のタイプ)を合わせるのですか。
「できるかぎり合わせるが、絶対条件にはしない。7人全員でHLAが合うのは難しいと思っている。HLAを合わせれば、患者に起こる免疫反応が少なく、免疫抑制剤の量も少なくて済むかもしれない。合わないと抑制剤の量が増えるかもしれないが、これまでだれもやったことはない」
――副作用などはどうなのですか。
「海外でこれまで実施された胎児の細胞を移植する研究では、ドーパミンを産生する細胞だけでなく、それ以外の細胞も混じって副作用があった。今回は、分化誘導法を工夫し、そうした別の細胞ができないようにした。移植した患者で万一、不要な細胞が増殖してしまう場合に備えて、陽電子放射断層撮影装置(PET)で観察する。不要な細胞は放射線で焼き切ることもできるし、外科手術でとることもできる。何か起きたとしても対策はある」
「脳という臓器はなにかあると重篤なことが起こる可能性がある。我々としては臨床に至るまでの有効性や安全性の評価は繰り返しやってきたという自負がある」
――高額な医療になりますか。
「保険収載を目指している。大日本住友製薬など企業と一緒に、コスト減も目指す。1回の移植で10~20年と効果が続き、寝たきりや要介護になることを防げれば、受け入れられる治療と考えている。パーキンソン病の外科治療は年間数百万円なので、移植治療も数百万円になればよいと考えている」
――臨床研究ではなく治験で実施する理由は。
「海外で既に胎児細胞移植が行われ、少なくとも効果があることや患者の選び方など細胞治療の全体が見えていた。このことからあえて臨床研究を行うより、最初から治験を行うと決めた」
――海外ではES細胞を使う臨床試験計画がありますが、なぜiPS細胞なのですか。
「人のES細胞は1998年に開発され、海外では臨床に向けた研究が進んでいた。ただ日本では臨床用ES細胞がなかった。今後は国立成育医療研究センターではES細胞を使った治験が始まる。今後はES細胞を用いる臨床応用が増えるかもしれない」
――今回の手法は、アルツハイマー病など他の神経変性疾患への展開は可能ですか。
「パーキンソン病以外にも、ドーパミン神経の補充療法は可能だ。また細胞が失われて機能障害が起こる病気では、細胞移植治療があり得る。アルツハイマー病は神経が障害を受ける範囲が広い。将来はなにかできるかもしれないが、現時点ではとっかかりが難しい」
――免疫抑制剤の第3相試験も同時に進めるのはなぜですか。
「再生医療では今後、他の疾患にも免疫抑制剤が必要になる。我々の治験で細胞用の免疫抑制剤の適用拡大したい。他の治験でも使いやすくなるという意図がある」
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