北米では連戦連勝、川重の鉄道車両が存在感
川崎重工業が得意の北米地域で鉄道車両ビジネスを拡大している。最大1600両規模を大量受注した米ニューヨーク地下鉄に加え、近隣地域でも通勤電車の製造と機器更新を約270億円で受注した。1980年代から市場で生き抜いてきたノウハウを前面に、モノ売りに頼らない稼ぎ方を身につけた。統廃合が進む再編の波間でも独自の存在感を見せている。
川重は30日、ニューヨーク・ニュージャージー港湾局トランスハドソン公社(PATH)から通勤電車「PA-5」72両の製造と運行中の同型車両350両の機器更新を受注したと発表した。受注総額は約2億4千万ドル(約266億円)。
PA-5は18メートル級のステンレス車両で、ニューヨーク・マンハッタン島と対岸のニュージャージー州を結ぶ「PATHトレイン」向け。車両は21~22年に納入し、屋根や外壁などを組み上げた「構体」と呼ぶ部分から機器の取り付けまでを米国内の2工場で手掛ける。
PATHで運行している全350両の整備も受注した。空調や駆動装置、ドアなどを新品に取り換えるオーバーホールは米ニューヨーク州の工場で24年にかけて実施する見通し。これまでの納入実績を生かしたストック型ビジネスの強化を掲げ、新車需要にとどまらない商機を開拓する。
鉄道輸送は先進国などでの環境意識の高まりに加え、新興国では交通渋滞の解消策として見直されている。UNIFE(欧州鉄道産業連盟)によると鉄道車両の市場規模は21年に1850億ユーロ(23兆円)と15年に比べ16%伸びる見通しだ。
日本メーカーにとって北米の鉄道需要は見逃せない。鉄道事業者の要求に応じて仕様を細かく変える必要があり、業界のトッププレーヤーとも互角に張り合えるためだ。国境をまたぐ直通運転の需要を背景に規格の統一が進み、経営体力が受注能力に直結しやすい欧州などとは対照的だ。
鉄道車両で国内最大手の日立製作所は2016年に米フロリダ州に製造拠点を開き、17年にはボルティモア地下鉄向けの車両を受注した。近鉄グループの近畿車両は米ボストンやロサンゼルスなど主要都市にLRT(次世代路面電車)向け車両を納入している。一方で、JR東海傘下の日本車両製造は12年に北米から受注した車両が基準の強度を満たさず、多額の損失を計上した末に製造を断念。24日に米国内の工場閉鎖・売却を発表した。
川重は1月、ニューヨーク市交通局(NYCT)から新型車両「R211」を大量受注した。追加分を含めて最大1612両の大量受注で、同地下鉄向けの車両ではシェア首位に立つ。PATH向けは84年の初受注以来シェアを伸ばし、現在運行中の車両はすべて川重が製造してきた。
鉄道車両メーカーは15年に中国国内メーカーが統合し、最大手の中国中車が誕生。世界2位の独シーメンスと同3位の仏アルストムも18年末に鉄道車両部門で事業統合し、新会社「シーメンス・アルストム」が発足する。ともに売上高規模で数兆円規模のグローバルプレーヤーが幅を利かせ始めた。
川重の鉄道車両事業の売上高は18年度(予想)で1600億円程度にとどまる。ニューヨークで当たり前となった「メード・バイ・カワサキ」だが、今後、同社がより強い存在感を示すには導入後のメンテナンスや機器更新の重要性が増してくる。あらゆるモノがネットにつながる「IoT」やAIなどの最新テクノロジーを組み合わせ、次世代の鉄道車両ビジネスを開拓できるかが問われてきそうだ。
(企業報道部 牛山知也)