悩ましいウッズ復調の判断 気掛かりな「変化」
ゴルフジャーナリスト ジム・マッケイブ
英カーヌスティ・ゴルフリンクス(7402ヤード、パー71)で行われたゴルフの全英オープン選手権(7月19~22日)の最終日。一時、前半で2つスコアを伸ばしたタイガー・ウッズ(米国)が単独首位に立つと、観客が沸いた。日本でも多くの人がテレビの前にくぎ付けになったのではないか。ジョーダン・スピース(米国)ら上位勢が苦しむ中、スルスルっと抜け出した。
ところが、11番でショットが乱れてダブルボギーをたたき、12番でもスコアを落として失速。その後はもう流れをつかむことはできず、ウッズは2008年の全米オープン選手権以来のメジャー制覇を逃した。
「惜しかった」「まだまだ戦えることを証明した」
大会後、そんな好意的な反応が多かったが、実際のところ、捉え方が難しい。
6位タイは14年以降の四大大会でベスト。その14年以降、ウッズはメジャー大会に9試合に出場したが、予選落ちが5回。過去2年は故障で出場すらできず、今季も出場できるかどうか疑われたなかで優勝争い。そういう背景も考えれば、今後への期待も膨らむ。
■楽しかった? よかった?
だが、圧倒的な強さを誇った00年代のウッズとは、いろんな面で違いを感じた。
試合後――。一昔前のウッズなら、一度は手にしかけた優勝を逃したことで、不機嫌そうにメディアに対応したはずである。2位に入っても、「くそったれ!」と悔しさをあらわにしたことがある。ところが今回、ホールアウト直後のインタビューでは「楽しかった」と話し、こう続けたのである。
「優勝争いができたことはよかった」
楽しかった? よかった?
かつて優勝を逃した彼が、そうした言葉を口にすることはなかった。負けてなお満足げなウッズの表情には、首をかしげた人も多かったはずである。
そもそも今回、リードした時点で逃げ切れなかったことがウッズらしさを欠いた。その一点だけを考えても、彼が「くそったれ!」とコメントしてもおかしくなかったが、そうした感情をあらわにすることもなかった。大人になったのか、優勝から遠ざかり自信を喪失したことで、優勝争いができたことだけでも十分だったのか。
何より変化は、選手らが気づいていた。
「昔のウッズではない」と口にしたのは、2位タイに入ったロリー・マキロイ(英国)だ。
「彼の体調は問題なさそうだ。彼のことは気にならないというわけじゃないけれども、かつてタイガー、フィル(・ミケルソン=米国)、アーニー(・エルス=南アフリカ)といえば、大きな壁だった。だが、そこまでの脅威は感じなかった」
正直なマキロイらしいコメントである。よって信用もできる。一時、ウッズを追う展開になったが、恐るるに足りず――。それは実力の話だけではない。もはや彼らはウッズを前に萎縮することもない。
かつて、最終日折り返しでウッズがトップに立てば、「もう終わりだ」という雰囲気が選手の間にも漂い、その気持ちがミスを誘った。ただ、ウッズに以前ほどの力もオーラもないことをマキロイは敏感に察していた。
おそらくウッズなら、そう見られていることにも気づいている。かといってそれが間違いであることを証明するすべもない。いや、全英オープンは唯一、「そのチャンスがあった」とウッズ。「マスターズは距離が長すぎるから」
全英オープンが行われるリンクスはボールが転がる。ならば距離が出なくても、対等に戦える。一方でマスターズなどはもう、若い選手に飛距離でかなわない。デビュー当時、その飛距離がマスターズを主催するオーガスタ・ナショナルGCを慌てさせ、コースが長くなるきっかけをつくった本人であるというのに、すっかり弱気である。
■時計を巻き戻すことはできぬ
今回、はたから見れば、まだメジャーで勝てるということを示した。
一方でウッズは時計を巻き戻すことはできない、ということを肌で知ってしまったかもしれない。
なお、カーヌスティといえば、これまでたびたび悲劇の舞台となった。
有名なのが1999年の全英オープン。このときはジャン・バンデベルデ(フランス)が最終日の18番を3打リードして迎えながら、トリプルボギーをたたいて追いつかれると、プレーオフで敗れた。8年後の全英オープンでは、パドレイグ・ハリントン(アイルランド)が最終日18番でダブルボギーをたたき、リードをフイにした。このときはプレーオフでセルヒオ・ガルシア(スペイン)を下したが、何かと波乱が起こる。
そして、今回も……。日本の松山英樹は2日目、通算1オーバーで18番を迎えていた。その時点での予選カットラインは2オーバー。パーなら予選通過である。ところが、ティーショットをラフに入れ、2打目がOB。トリプルボギーをたたいて、結果的には予選カットラインに1打及ばなかった。
やはり、カーヌスティは油断ならない。