ベトナムに技術者1000人、アプリ開発 フランジア
ベトナムで毎月1000人の就職希望者が門をたたく日系スタートアップがある。優秀なプログラマーを1000人体制で抱えるアプリ受託開発のフランジア(東京・千代田)だ。2017年にベンチャー投資事業にも進出し東南アジアで投資先を広げる。IT人材が豊富なベトナムで、創業5年のフランジアが独自の「日越協業」体制を築いている。
ベトナムで最も高い350メートルの超高層ビル、京南ハノイランドマークタワー。ワンフロアを占めるフランジアのオフィスにはソフトウエア技術者800人がパソコン画面と向き合う。社員の平均年齢は28歳。土足厳禁のためエンジニアの大半がはだしで、リラックスしながらも活発にアイデアを出し合ってい
た。
「ここにいる技術者は本当に優秀。日本だったらこのレベルの技術者は採用できない」。ハノイ在住の小林泰平社長兼最高経営責任者(CEO、34)は胸を張る。
ベトナムの理系トップ大学、ハノイ工科大学出身者を中心に優秀なソフトウエア技術者がフランジアの門をたたく。毎月1000人以上の応募者から数十人を厳選し、グーグルの基本ソフト「アンドロイド」やアップルの「iOS」、サーバー設計の技術者をバランス良く採用して開発体制を拡充してきた。
日本のIT業界では2000年代から人件費の安いベトナムやフィリピンなどにソフト開発の一部を外注する「オフショア開発」が浸透した。フランジアも「世界的に技術者不足は続く」(小林氏)とみて13年にハノイ市で起業し、主に日系企業のアプリ開発を支援。現在の売上高は20億円弱で、この3年間で5倍の規模に成長した。
同社の特長は、開発案件ごとに専属チームを組んでプロジェクトを請け負う点だ。数人から10人程度のメンバーを固定して納品まで担う。「責任と権限を与えた方が優秀な技術者の創意工夫が生きる」(小林氏)と考えるためだ。
同じメンバーが顧客企業の担当者とタッグを組むことで信頼関係も深まる。阿吽(あうん)の呼吸が生まれ、ベトナム側からの改善提案も増える。結果的にアプリの完成度はぐっと高まる。
「一緒に仕事をしてコイツらは俺のチームだと思えるようになった」――。日本交通グループのジャパンタクシー(東京・千代田)の手島健志マネージャーは目を細める。同社は子供送迎の「キッズタクシー」専用アプリをフランジアとともに開発した。ハノイで働く4人の技術者と半年間仕事したことで「自ら考えて改善提案をしてくるようになった」という。
開始当初、手島氏は隔週ペースでハノイに出向いては技術者のスキルやプロジェクトの進捗を確認。日本にいるときも毎朝テレビ電話で細かな作業内容を打ち合わせしていた。1~2カ月後にはベトナム側がプロジェクトの要諦を理解し、日々の確認作業が減っていったという。
キッズタクシーのアプリ開発予算は日本での委託と比べて3分の1程度に抑えられた。手島氏は「コミュニケーションの問題は多少あるものの、プログラミングのスキルは同年代の日本人より優れている」と評価。その後もフランジアを活用してアプリや社内システムの開発を進めている。
フランジアの全社員1200人のうち東京で働くのは50人程度。ベトナムのハノイやダナンで1000人超の人材を抱え、バングラデシュにも拠点を構える。小林社長自身も「東京にいるよりベトナムにいる方が世界が広がる」と生活拠点をハノイに移した。
アプリの受託開発と並行して17年に始めたのが初期段階のスタートアップへの投資だ。きっかけはマネーフォワードやユーザベース、ほぼ日などアプリ開発の顧客企業の新規株式公開(IPO)だった。スマートフォン向けアプリの企業が急成長するのを目の当たりにして「アプリ受託開発と投資の相乗効果は大きい」(小林氏)との読みもあった。
出資は既に十数社にのぼる。日系だけでなくベトナムやタイ、バングラデシュの企業にも出資した。年内メドに10億円規模のベンチャーキャピタル(VC)を設立する計画で、小林氏は「アプリ開発から資金調達、上場支援といったスタートアップ支援のプラットフォーマーを目指す」との将来像を描く。
社名のフランジア(Framgia)は「From Asia」が由来。「閉塞感漂う日本にとどまらず、活気あふれるアジアとともに成長し世界に打って出る」との思いがこもる。ベトナム育ちの異形の企業は、他社にはない独自の国際分業モデルを推し進めている。 (細川幸太郎)
[日経産業新聞 2018年7月25日付]