トランプ政権、台湾問題への関与強化 対中けん制狙う
【ワシントン=永沢毅】トランプ米政権が台湾やその周辺海域への関与を強める方針を鮮明にしている。将来の統一も視野に台湾への軍事的圧力を高めている中国をけん制する狙いがある。中国との通商分野を巡る交渉を有利に運ぶカードや武器の主要輸出先としても米国にとっての台湾の存在価値は高まっているといえ、中国は警戒感を強めている。
「中国は爆撃機を飛行させたり、軍事演習を繰り返したりして台湾への軍事的圧力を強めている」。シュライバー米国防次官補は18日、ワシントンでの講演で最近の中国の動向について懸念を表明。台湾を軍事・防衛面で後押しする方針を明らかにした。
米台協力はこのところ加速している。7月7日、米海軍はミサイル駆逐艦2隻を台湾海峡に派遣し、通過させた。米国防筋は米艦船の航行の頻度を今後、増やす可能性があると示唆している。
17日には台湾の国防部(国防省)が、米国製の軍用ヘリコプター「アパッチ」29機を実戦配備した。これらのヘリは米国がブッシュ(子)政権時代の08年に売却を決め、13年に納入が始まり、台湾は運用訓練を続けてきた。攻撃性能の高いアパッチは「戦車キラー」とも呼ばれ、中国軍が台湾に侵攻した場合の防衛を担う。
5月には台湾・高雄で軍需関連産業の関係者が集まる会議「台米国防産業フォーラム」を初めて開催。米台の協力の推進について議論した。トランプ政権は3月には米国と台湾との間であらゆるレベルの高官の相互往来を解禁する台湾旅行法を成立させており、安保関係の高官の交流が始まる可能性もある。
底流には軍事、経済両面で台頭する中国への警戒感がある。トランプ政権は昨年末にまとめた国家安全保障戦略で、中国を「修正主義勢力」と批判した。半面、台湾との関係については「必要な合法的な防衛力を提供する」とともに、中国の動きを念頭に「威圧を抑止する」と明記。関係強化に努める方針を打ち出した。
4月には「対中強硬派」とも目されるボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)が新たに就任。同氏はかつて台湾への支援強化を訴えたこともあり、米台接近のキーマンとしての存在感が高まっている。結果的には見送られたが、6月に開いた米国の対台湾窓口機関、米国在台協会(AIT)台北事務所の新庁舎の落成式への出席案も一時は取り沙汰されたほどだ。
米中の貿易戦争が激しさを増すなかで、トランプ大統領が台湾を交渉カードに使うとの観測もある。「トランプ氏にとっては通商分野で得点を稼いだほうが、中間選挙に向けては支持基盤の強化につながる」(ワシントンの外交筋)ためだ。
中国にとって、台湾は譲歩できない「核心的利益」であり、最も敏感な問題だ。米国は武器供与や周辺への軍艦派遣といった台湾支援策と、「1つの中国」政策の維持という現状維持方針を硬軟おりまぜて、通商分野での譲歩を引き出そうとしているとの見立てだ。
「米国と台湾はエネルギーや保健、人道援助など幅広い分野で協力してきた」。台湾の蔡英文総統は24日、台北市内で開かれた安全保障関連のシンポジウムでこう発言。米をはじめ民主主義などの価値を共有するパートナーの輪を広げるべきだと演説した。米の元高官らも出席するなか、「中国は『私たちの同盟』に侵攻し続けている」とし、協力を呼びかけた。