ソフトバンク連覇に暗雲 苦戦招いた昨季のツケ?
折り返し地点を迎えたペナントレースで王者ソフトバンクの連覇に黄信号がちらつき始めた。昨季は45の貯金をつくり、2位に13.5ゲーム差をつけたが、今季は不安定な戦いが続く。球宴前の10試合は3勝7敗で39勝37敗。3位タイと辛くもAクラスには踏みとどまったものの、貯金は底をつきかけている。相次ぐ故障者に調子の上がらない主軸。勝負の夏場を迎えても、追撃態勢は整わない。(記録は15日現在)
2位日本ハムと対戦した球宴直前の2連戦はとりわけ元気がなかった。初戦は先発の石川柊太が五回途中5失点でKOされると、打線も内川聖一のソロのみで1-10。柳田悠岐を1番に起用するなど打線を組み替えて臨んだ2戦目も快音は聞かれず、投手陣も崩れて0-12。多くの関係者らが足を運んだ東京ドームの「鷹(たか)の祭典」で期待を裏切った。
■岩崎、サファテら故障者相次ぐ
苦戦の最大の要因は相次ぐ故障者だ。昨季、セットアッパーとして防御率1.99の好成績を残した岩崎翔は右肘を痛めて開幕直後から不在が続く。日本新記録の54セーブを挙げて最優秀選手にも選ばれた抑えのデニス・サファテも右股関節の故障で開幕早々に離脱した。代わりに終盤を任されたリバン・モイネロ、森唯斗はともに防御率4点台と安定感を欠いている。
先発でも昨季16勝で最多勝に輝いた東浜巨が右肩の不調で5月下旬に登録抹消となり、ベテラン和田毅も左肩の違和感で戦列を離れたままだ。開幕投手を務め、柱と期待された千賀晃大も体調万全とはいかずに登録抹消を繰り返してきた。野手の今宮健太も右肘の痛みで6月中旬に離脱した。
主力の不調も響いている。4番でスタートした主将の内川は5月に2000安打を達成した直後、足を痛めて登録を抹消された。6月中旬に復帰した後も調子は上がらず、打率2割2分6厘で先発を外れる日も増えている。アルフレド・デスパイネ、松田宣浩も一発こそ出ているが、打率はともに2割2分台と確実性には乏しい。既に昨季に迫る12本塁打を放っている上林誠知の成長はあるが、期待込みで使われる若手はめぼしい結果を残せておらず、主力の不振をカバーするにはほど遠い。
多少の見込み違いはペナントレースの常だが、これだけ狂うのは想定外ではなかったか。工藤公康監督は「多少悪いところがあっても離脱せずに頑張ってくれた選手のおかげで貯金をもって球宴に入れた。一時は4割を超える打率で打線を引っ張ってくれた柳田君、投手では石川君が結果を残してくれたのが大きい」と前半戦を振り返る。春季キャンプの時点では先発6番手のイスを争っていた石川が5月までに7勝を挙げたのは恐らく唯一の"うれしい誤算"。そんな状況でAクラスを維持できているのは、地力のたまものともいえる。
■救援陣への信頼と酷使は表裏一体
だが、王者の現状は一概に「誤算続き」とも片付けられない。サファテはソフトバンクに移籍した2014年以降、4年連続で60試合以上に登板し、昨季は最多の66試合。岩崎は球団記録を更新する72試合に投げた。昨年のソフトバンクは六回を終えてリードしていれば76勝3敗と盤石のブルペン陣は強さの源泉だった。しかし、救援陣への信頼は彼らの酷使と表裏一体でもあった。
昨年8月1日、サヨナラ本塁打を打たれたサファテは「先発投手が早い回で降りる試合が続き、そのツケは後ろに回される。リリーフはみんな疲れている。首脳陣は先発をもっと信頼して長いイニングを投げさせてほしい」と訴え、工藤監督も理解を示した。しかしその後も、日本シリーズ第6戦ではサファテが終盤3イニングを投げてサヨナラ勝ちにつなげるなど、救援陣への依存は変えられなかった。昨季の登板過多が今季の故障の直接の原因とはいいきれなくても、全く関係がないとも考えにくい。多かれ少なかれ、今季のチームが昨季のツケを払わされているのは否定できない。
工藤監督は後半戦に向け「けが人が少しずつ帰ってきてチームの形が整ってくる。(首位と6.5ゲーム差と)逆転できない数字ではないので、やり返せるようにしたい」と巻き返しを狙う。ただ、16日から1軍に復帰した今宮以外はいまだにめどが立たず、サファテや岩崎は今季を棒に振る可能性さえある。30代半ばになった内川や松田の状態が長いスランプなのか、緩やかな衰退の始まりなのかも定かではない。先発の中心を担った石川も6月以降は勝てず、序盤で打ち込まれるケースが目立ち始めた。
成功体験が大きいほど、そこからの脱却は難しい。何本もの太い柱がチームをがっちり支え、今季も優勝候補の大本命とみられたソフトバンクが、Aクラス確保に四苦八苦する厳しい現状。勝負の世界では、何一つ保証されていない。
(吉野浩一郎)