W杯上位進出に欠かせない「チームスピリット」
サッカージャーナリスト 大住良之
フランスの2回目の優勝で幕を閉じたサッカーのワールドカップ・ロシア大会。64試合、1カ月間の戦いでどんなものが見えてきたのか――。
決勝を前にした7月12日、大会を技術面から分析している国際サッカー連盟(FIFA)のテクニカルスタディーグループが記者会見を開いた。そのなかで、出席者の一人、アンディ・ロックスバーグ氏(スコットランド)が興味深い話をした。
■5割超えたセットプレーからの得点
ワールドカップに勝るとも劣らないハイレベルの大会である欧州チャンピオンズリーグでは、CKから得点が生まれるのは45本でようやく1点という割合に対し、今大会では30本に1点の割合だったというのだ。そして今大会出場の32チームのうち15チームがCK、FK、PKなど「セットプレー」からの得点が全得点の50%を上回り、イングランドに至っては全12得点の75%に当たる9得点がセットプレーだった。
「短時間の練習でコンビネーションを磨くことはできない。大会準備は守備の組織づくりとセットプレーに時間が割かれる傾向がある」と、ロックスバーグ氏は語る。
フランスとクロアチアの決勝も、まさにそうした試合だった。前半の3得点はいずれもセットプレー。フランスがFKから相手のオウンゴールを誘い出し、クロアチアもFKから同点に追いついた。そしてフランスの2点目は、ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)によってPKが与えられたものだった。
弱小国が守備を固めて優勝候補の国を苦しめるというパターンも、この大会の前半に頻繁に見られた。それもこの大会の傾向であると、ロックスバーグ氏は話した。
だが、これらの特徴はあくまで「傾向」であり、もちろん例外も存在した。その最高の例が3位になったベルギーだ。
ベルギーは攻撃陣に多彩なタレントを持ち、特にFWルカク、E・アザール、MFデブルイネの3人は傑出した才能の持ち主だった。しかしベルギーの攻撃はこの3人による局面の打開に頼るわけではなく、どのポジションの選手も効果的に攻撃に加わっていく。準決勝ではフランスの守備力に屈したが、間違いなく今大会で最も「サッカーをつくる」ことのできるチームだった。
その秘密は判断の速さにある。ベルギーの選手たちは自分のテクニックを駆使しながら、次々とより相手にダメージを与える選手にボールをつないでいく。速い判断で効果的につないでいくから、攻撃にスピードが出る。またボールを持っていないときの動きの判断も速いから、相手が止めようのないところにパスが出てくる。
「(時間に制約のある)代表のサッカーだからコンビネーションはつくれない」では、フィジカル面でまだまだ世界に遠い日本に未来はない。今大会でベルギーのようなチームがあったという事実を、重要な手掛かりにしなければならない。
今大会では、多くの国が「ボールポゼッション(ボール保持率)」を重視していないようにみえた。なかには、意図的に相手にボールをもたせて効果的に守り、攻めようとするチームもいくつもあった。そうしたなかで、西野朗監督が率いた日本代表は「クラシックスタイル」といっていいほど丁寧にボールをつなぐサッカーをした。それだけでなく、見事に相手を崩してから得点も生んだ。
このサッカーで1次リーグを突破でき、ベルギーを追い詰める活躍ができたのは、チーム全員で守備のタスクを手を抜くことなく続けた結果だった。全員がチームの勝利のために戦うことを貫けたから、この結果があった。
■ベルギーとクロアチアが傑出
では、今回の「ベスト16」を超えて今後、ベスト8、ベスト4と進むことができるのか。
第1に必要なのは今回よかった点、チームのために戦う姿勢を決して忘れず、日本代表の確固たるベースにすることだ。2010年ワールドカップでも同じ姿勢で好成績を残した。その姿勢はしばらく続いたが、14年ワールドカップを迎えるころには忘れ去られていた。
第2には守備を固めてカウンターを狙うのではなく、今回と同様、ハードに守りながらもパスをつないで攻撃をつくっていくサッカーを続けることだ。そのなかで選手の質、判断のスピードをベルギーのレベルにまで向上させなければならない。
そして第3には、世界に通じるタレントの育成である。サッカーは決してタレントがすべてではない。しかし「よいサッカー」を「成果(よい成績)」に結び付けるのはタレントである。ベルギーにE・アザール、ルカク、デブルイネのトリオがいたことを忘れてはならない。
だが、何よりも必要なのはチームワーク、全員がチームのためにプレーするという「姿勢」に妥協があってはならないという点だ。ベルギーや2位になったクロアチアには、自分のためにプレーしている選手など皆無だった。全員がチームの勝利だけを考えていた。「チームスピリット」という面で、この2チームは今大会で傑出していた。
セットプレーも守備固めも「アンチ・ポゼッション」も考える価値のあるテーマだが、日本のサッカーを突き詰めることでワールドカップ上位に手が届くようになるかもしれない――。そんな思いを抱かせてくれる大会だった。