国家主導の成長、中国に懸念 通商白書
政府は10日、2018年版の通商白書を閣議に報告した。大規模な補助金や基金など国家主導で経済成長を遂げる中国を重点的に取り上げ、鉄鋼に続き半導体でも過剰生産が生じる懸念を示した。一方、自国第一主義で各国と摩擦を起こしている米国に関する記述は一部にとどめた。7月下旬に始まる日米閣僚級の貿易協議への影響を避けたい思惑もありそうだ。
通商白書は1949年から毎年発行しており70回目にあたる。索引などを除く全324ページのうち「急速に変化する中国経済」と題した項目に87ページ、中国が震源とされる過剰生産問題に11ページと、中国に関する記述に全体の3割にあたる計98ページを割いた。
貿易戦争の端緒となった鉄鋼の過剰生産問題については、2001年から16年までを3つの期間に分けて分析。(1)05年までは国有銀行が鉄鋼企業に積極的に融資し、生産能力を増強(2)06~15年は利益率の低下を受けて政府が補助金を拡大(3)16年からは各国の批判を受けて能力削減に動き出した――とした。
その上で「過大かつ低利な融資が生産能力を増やした」「政府補助金は事実上、企業の赤字補填や収益性の低い企業の延命措置となった」と批判した。
半導体についても、鉄鋼に次いで過剰生産の恐れがあると記述。中国政府は半導体産業を重点分野に掲げ、15兆円規模の政府系ファンドで企業を支援。白書は「01~05年の鉄鋼業界と類似している」と警戒を強めた。
世界における中国の存在感はこれまで以上に高まっているとも分析している。たとえば、17年で最大の輸入相手国が中国である国は57カ国で、全世界の3割にあたると記載。北朝鮮1カ国だった00年から大きく伸び、2位の米国(28カ国)に2倍近くの差をつけている。日本は00年にはインドネシアやタイ、韓国などにとって最大の輸入相手国だったが、すべて中国に取って代わられた。
一方で、電子商取引の市場規模も世界最大にあたる375兆円に伸びたほか、ベンチャー企業への投資金額も2.2兆円と米に次いで大きいことも引用し、「日本企業のビジネスチャンスは大きい」とした。
一方、保護主義にまい進する米国に言及したのはわずか30ページ。17年2月以降の日米首脳会談や日米経済対話を主に取り上げ、協力の重要性を強調した。トランプ米大統領が日本も対象に鉄鋼・アルミニウム製品の輸入制限に踏み切ったことに関して「日本を対象から除外しなかったことは極めて遺憾」との世耕弘成経済産業相の談話を掲載したものの、トランプ氏が検討している自動車の追加関税に関する記述は皆無。経産省は「製作時期に間に合わなかった」とするが、4月中旬にはすでにトランプ氏が関税上げを示唆し、5月下旬には発動に向けた検討を開始している。政府関係者からは「余計な記述で米国をむやみに刺激したくない」といった声も漏れており、米国への「忖度(そんたく)」が透けて見える。(古賀雄大)
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