中東・北アフリカ観光急回復 テロ沈静化で欧州客戻る
【イスタンブール=佐野彰洋】2015~16年にかけて発生したテロで打撃を受けた中東・北アフリカの観光産業の復調が鮮明になっている。治安の回復や自国通貨の下落を追い風に、観光を主産業とするチュニジア、トルコ、エジプトでは17年の国外からの訪問者数が2~5割増加した。かき入れ時の夏場の予約も大幅に増えており、トルコは過去最高の年間4千万人の受け入れも視野に入れる。
「欧州からの観光客が戻ってきた」。地中海に面したトルコ南部のリゾート地フェティエのホテル経営者は、今夏の好調な予約状況に安堵する。
トルコは15~16年に相次いだテロやクーデター未遂事件の影響で、外国人旅行者数は16年に前年比3割減の約2500万人に落ち込んだ。その後、政府による治安対策の強化などが奏功し、17年以降はテロの封じ込めに成功。安全面を懸念していた観光客が戻った。
18年1~5月は前年同期比3割増の1146万人を受け入れた。英旅行会社トーマス・クックによると、トルコを行き先とする夏場のツアー旅行の予約は前年に比べて84%増えている。トルコの旅行業界団体幹部は、最大市場であるドイツとロシアからも予約が増えており、18年は過去最高の4千万人達成も可能と語る。
トーマス・クックのデータでトルコを上回る回復率を示しているのがエジプトだ。古代遺跡や紅海沿いの保養地など観光資源に恵まれるが、15年10月、東部シャルムエルシェイクを飛び立ったロシアの航空機が墜落し、過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出した。
この影響で欧州などのエジプト便の運休が相次ぎ、16年の訪問者数は540万人とピークだった10年の約3分の1に落ち込んでいた。ただ、ロシアが直行便を再開するなど各国政府がエジプトへの就航規制の廃止や緩和を決めたことで息を吹き返した。
15年に首都と中部のリゾート地で外国人を狙ったテロが起きたチュニジアも回復が鮮明だ。中東メディアによると、18年1月~5月後半までの訪問者数は前年同期比21.8%増の230万人に達した。エルミ観光相は通年で18%増の800万人の達成に期待を示す。
各国の治安当局は観光施設や空港などの警備の強化を進めてきた。ISが本拠地のシリアやイラクで支配地域を失い、勢力を後退させたこともプラスに働いた可能性がある。
通貨の下落で割安感が高まったことも追い風になっている。トルコリラは17年に対ドルで約7%、18年は2割弱も下落した。エジプトは財政危機でエジプトポンドの固定相場制を維持できなくなり、16年11月に変動相場制に移行。エジプトポンドは対ドルで急落した。