ビットコイン相場長引く低迷 操作疑惑、規制強化論…
代表的な仮想通貨ビットコインの相場低迷が長引いている。足元で1ビットコイン=6500ドル程度と2017年12月につけた最高値(2万ドル弱)の3分の1程度で推移する。価格操作の疑惑、世界で相次ぐ規制強化論、需給のゆるみという3つの壁が背景にある。決済分野での将来的な普及期待は残るものの、当面は上値の重い展開が続くとの見方が増えている。
価格操作の疑惑が浮上したのは米テキサス大学のジョン・グリフィン教授らが6月13日に発表した論文がきっかけだ。仮想通貨「テザー」の取引記録を分析した。テザーは「1ドル=1テザー」の固定レートで価格が比較的安定しており、17年に中国政府が仮想通貨交換所を相次いで閉鎖した際、資産の海外移転に利用されたとされる。
発行元であるテザー社が通貨テザーを大量に発行、これを受け取った仮想通貨交換会社ビットフィネックスなどが「テザー売り・ビットコイン買い」の取引でビットコイン相場を下支えしていたと、グリフィン教授はみる。この結果、ビットコイン相場は17年末にかけて急騰した可能性が高いと結論づけた。
ビットフィネックスの最高経営責任者、ベルデ氏はテキサス大の論文について「相場操縦や価格操作に関わっていない。テザー発行がビットコイン価格を下支えするのは不可能」と疑惑を否定。一方、グリフィン教授は「我々が過去に不正を指摘した人物は常に否定するが、のちに我々が正しいと明らかになった」と研究成果に自信をみせている。
テザー社とビットフィネックスの経営陣は同一とされている。また、テザーは「準備金」として保管する米ドルと同価値までしか発行しない仕組みだが、実際はこのルールがきちんと守られていないのではとの疑惑もかねて指摘されてきた。準備金を超えてテザーを発行してしまっているなら、ビットコインを買い支える力は強くなる。
規制強化の動きも上値を抑える。3月にアルゼンチンで開いた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議では資金洗浄を防ぐための規制が必要との議論が盛り上がった。
米報道によれば、米商品先物取引委員会(CFTC)が主な仮想通貨交換会社に対し、取引データ開示を求めた。シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)に上場するビットコイン先物価格が相場操縦でゆがめられた可能性を調べており、機関投資家の利用が手控えられている。
仮想通貨の法的な位置づけは明確になっていく見通しだ。米証券取引委員会(SEC)はビットコインと仮想通貨で2番目に有力なイーサリアムについては、連邦証券法上の有価証券に該当しないとの見解を示した。その一方で、仮想通貨技術を使った資金調達(ICO)で発行されるコインについてはSECの監督対象になるとの見方が優勢だ。
価格低迷を受けて、需給もゆるみがちだ。情報サイトのブロックチェーンインフォによれば、ビットコインの1日あたりの取引件数は15万~20万件と、17年(20万~45万件)比で大幅に落ち込んでいる。日経マネーの調査では仮想通貨への投資経験があるひとのうち、5割が「今後は投資しない」と回答した。「世界的な株高が止まった影響もあり、資金流入が減った」(フィスコデジタルアセットグループの田代昌之代表)との指摘がある。
ビットコイン相場は6月下旬につけた年初来安値(5800ドル前後)を付けた後、やや回復基調にある。ただ、心理的節目とされる1万ドル水準は大きく下回り、勢いは衰えている。
投機マネーの後退で価格のブレが小さくなれば、「決済手段」として仮想通貨の使い勝手は高まるとして、むしろ「地に足のついた成長フェーズに入った」(ビットバンクの広末紀之社長)との声がある。ただ、そのためには価格操作の疑惑を乗り越え、規制の着地点がみえてくることなども条件になる。(関口慶太、ニューヨーク=宮本岳則、関根沙羅)
仮想通貨とは紙幣や硬貨といった実物がなく、インターネット上でやり取りするお金を指す。専門の取引所を通じてドルや円などの通貨と交換できる。代表的な仮想通貨としてビットコインがある