「非大卒」向けの就活支援登場 VAZが新サービス
動画マーケティングのVAZ(東京・渋谷、森泰輝社長)が高卒など「非大卒」の就職活動を支援するサービスを立ち上げた。非大卒は若者の半数近くを占めるが、これまで就活支援の主体は学校やハローワークに限られていた。企業の新卒獲得競争が激しさを増すなか、企業と有望な働き手を結びつける新たな取り組みが注目されそうだ。
「大卒でなくても、がんばれば年収1000万円も夢じゃありません」――。とある週末。東京・青山にあるビルの一室で、企業の人事担当者が熱弁を振るっていた。
VAZが主催する就職説明会「バズキャリ就活」での一幕だ。参加した求職者は主に18~29歳。いずれも大卒以外で、高卒や中卒をはじめ専門卒、高専卒、大学中退など。7000人超の応募があり、書類選考を突破した100人が参加した。
ある中卒の男性(21)は「やりたいことが見つからず、ファストフード店のアルバイトを続けてきた」と明かす。また、別の男性(23)は、国立大学に入学したが、「雰囲気になじめずに大学を中退して工事現場監督のバイトで食いつないでいる」と話していた。
企業側は中堅・中小企業やスタートアップが多い。採用担当者による説明に続き、求職者が1分間で自己PR。採用担当者が気になる人材が見つかれば、直接連絡を取って面接に呼ぶ仕組みだ。
埼玉県吉川市の会社員、立沢克哉さん(22)はこのイベントで内定を獲得したひとりだ。高卒で介護サービスの会社に入社したが、将来のキャリア形成に不安を感じて応募。「根性だけは人一倍あります」などとやる気を訴えた結果、広告などを手がけるビジョンズ(東京・品川)から声がかかった。面接を経て内定を獲得、4月から同社で働き始めた。前職では「昇進も期待できず、給与面にも不満があった」が、今は歩合制で営業努力が反映される。「給与は前職の3倍になった」と満足げだ。
ある参加企業の採用担当者も「非大卒に着目したことで、他社がまだ目を付けていないような人材に出会うことができた」と話していた。
VAZはもともと動画共有サイトへの投稿で収入を得る「ユーチューバー」のマネジメントなどが本業。著名ユーチューバー「ヒカル」さんらが所属しており、ネットを利用する若い世代への訴求力は高い。森社長が非大卒の就活支援に着目した理由は、自身のキャリアとも関係がある。
森社長は大学中退だ。「学んだものが役に立たないと思い、中退した。大学には目的もなく授業に出て寝ている学生もいる。役に立たないことに金と時間をかけるのはもったいない。働くことをもっと前向きに捉えたいと思った」。そして「非大卒で超一流企業にすぐに就職するのは難しいかもしれないが、一度職歴を付けた後にワンランク上の企業に転職するのは十分可能だと伝えたい」と話している。
マイナビ企業新卒内定状況調査によると、企業が計画通りに採用できたかどうかを示す「採用充足率」は、18年卒で4.7ポイント減の83%。特に非上場企業は77.8%で、上場企業と比べて17.5ポイントも低い。「大卒だけを狙っていたら、必要な人材を確保できない」(採用担当者)状況だ。
非大卒の就活は、大卒に比べて不利な面が多い。大卒でないという理由だけで採用の対象にしていない企業も多いが、「非大卒には就活を支援する仕組みが乏しかった」と森社長は指摘する。大卒では「リクナビ」「マイナビ」などの大手情報サイトが存在する。非大卒向けで同様の大手サイトはなかった。就活イベントも大卒向けが大半。大学の就職課(キャリアセンター)による支援体制や、企業によるインターンシップの機会も充実している。
これに対し、高校生が進路相談をする相手は、高校の先生のみというケースが多い。しかも高校生は応募期間が7月1日からわずか2カ月間。高校はハローワークに求人を出していない企業を勧めないことが多く、高校生にとっての企業の選択の幅はかなり限られる。
VAZではイベントのほか、スマートフォン(スマホ)向けアプリ「バズキャリア」も提供。チャットを使ってキャリアカウンセラーに相談でき、自分に合う企業も紹介してもらえる。これまでに1万4000人以上が登録し、130人以上が内定を獲得した。森社長は「非大卒人材にとっての『リクナビ』を目指したい」と意気込む。
高卒の3年以内の離職率は40.8%。大卒に比べて10ポイントほど高い。仕事への理解が不足したまま就職した結果、入社後も不満や不安を抱え、定着できないケースもあるようだ。高校生の大学進学率は増加傾向にある。ただ大学に入ってから中退する人もいるため、非大卒は依然として一定の割合を占めている。
非大卒がキャリア観を見直し、そして企業が非大卒に対する意識を改めることが、採用に新たな可能性の扉を開くことになるかもしれない。
企業の採用コンサルティングを手がける人材研究所(東京・港)の曽和利光氏の話
これまで非大卒には人材の優劣を見極める基準がなく、企業が採用しにくい現状があった。逆にいうと見極めることさえできれば、企業は競争なしで採れることになる。つまり採用意識が高い企業ほど有利になる。
私の古巣のリクルートでは、グループ会社に3年限定で雇用する制度がある。高卒でもそこから羽ばたいて起業家になったり、通常の正社員採用で有名企業に行ったりする人が大勢いた。
これは会社が社員に対して、雇用される力、すなわち「エンプロイアビリティー」を補償するという考えによるものだ。企業が機会を提供し、非大卒がこれに応えてがんばれば、能力を高められる機会が広がる。
(鈴木洋介)
[日経産業新聞 2018年6月27日付]
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