西野流「聴く力」結実 適材適所、冴えた決断
サッカーW杯
【カザン(ロシア)=岸名章友】サッカーのワールドカップ(W杯)ロシア大会で日本代表が3度目となる決勝トーナメント進出を果たした。部下ありきで適材適所を探していくのが西野監督のスタイル。大会直前の強化試合でつかんだいい流れを迷わずに取り入れ、かつ選手個々の力を引き出したことが、就任3カ月足らずの緊急登板ながらも組織全体を立て直せた主因だろう。
「西野さんのすごいところは人の意見を受け入れること。その強みと、現メンバー内に提言できる選手が多いことがマッチしている」。本田が西野監督の「耳を傾ける力」に感心したように述べたときがあった。
ハリルホジッチ前監督は自分の理想とするチーム像に選手をはめ込んでいくスタイルだった。「日本選手はフェラーリではない」と欧州の目線で直言し、スピードや肉体的強さを世界基準まで高めるよう強く求めた。
自分で相手や選手を分析する半面、日本人スタッフの進言にはさほど耳を傾けなかった。頑固で強権的だっただけに、結果が伴っている間は良かったが、自らが選んだ選手が振るわず、チームとして機能しないと、監督は選手にあたり、選手もまた、監督に付いていく意欲を失っていった。
西野監督は逆だ。型にはまった考え方をせず、いい意味でこだわりがない。大会前最後の強化試合となったパラグアイ戦(6月12日)。ここに至るもW杯本番に向けた最適な布陣を確立できていなかったが、この試合で起用した香川、乾が大活躍し4得点の快勝。これで本番に向けた視界が一気に開けた。選手の変更にも一切迷いはなく、これ以降、記者会見でも言動に余裕が出てきた。
前回ブラジル大会にも従事したスタッフが、練習強度を早めに高めすぎて失敗した反省を生かして練習メニューを進言すると、これを最大限に取り入れた。そうした配慮が大事な初戦を最上のコンディションで迎えられた要因となった。
どう戦うかのミーティングでも選手に意見を述べさせ、自分はまず聞く側に回る。そのうえで「最後は監督が決める」(主将の長谷部)。
西野監督にはずぶとさもある。「(突破のかかる第3戦で)私なら先発を6人も替えられない。そんな度胸はない」と田嶋幸三・日本サッカー協会会長。「冷静で、慌てるのをまだ見たことがない」と長友は笑う。
どの選手を、どう配置させて使うかが監督のセンス。西野流は意見の風通しが良い分、主張の強い本田、実績を誇る香川らベテランも監督の決断に士気を損ねることなく、聴く力に応じるように役割を果たそうとしている。
最悪リスク想定、判断賢明だった ~経営コンサルタントの小宮一慶氏
(ポーランド戦で終了間際、無理に攻めなかった試合運びについて)ルールと倫理・モラルの問題だと考えている。西野朗監督の戦術はモラル上の問題はあるかもしれないが、ルールには違反していない。かつて松下幸之助氏は「正々堂々」を訴えたが、企業経営においても同様の局面は考えられる。
スポーツ指導者でも経営者でも、戦術・戦略の失敗における最大のリスクを常に想定するものだ。今回の代表戦でいえば最大のリスクは1次リーグ敗退だ。代表チームには、強豪ポーランドと正々堂々闘うことよりも、決勝トーナメント進出に大きな期待がかかっていたはずだ。
企業経営において粉飾決算のような法令に反する不正は絶対に許されない。しかし倒産や業績の急激な悪化といった大きなリスクを前に、従業員のモラルや士気が一時的に下がっても手段を選べない重大な局面はある。ギリギリを攻めた西野監督の選択は賢明な判断だったと考える。