ロッテ総会、4度目の兄弟げんか 上場への道のり遠く
ロッテホールディングス(HD)が29日都内の本社で開いた株主総会で、創業家の重光宏之前副会長が提案した弟の重光昭夫副会長の解任議案が否決された。2015年に経営権を巡る兄弟の争いが表面化してから、宏之氏提案の人事案が否決されるのは4回目。昭夫氏が韓国の刑事裁判で収監される異常事態の中でも、お家騒動は収束の兆しが見えない。今春、HD傘下の事業会社を再編した新生ロッテが船出したが、目標とする国内上場までの道のりは遠い。
対立、3年半続く
29日の総会で宏之氏は、昭夫氏と佃孝之社長の解任と自身の取締役選任を求める株主提案を行った。宏之氏はロッテHDの株式の3割を保有する重光家の資産管理会社を支配するが、提案は従業員持ち株会や役員持ち株会などの反対で否決された。総会では役員選任案など会社側提案の全議案は承認され、約1時間で終了した。
韓国出身の重光武雄氏が1948年、日本で製菓会社として創業したロッテ。ガム製造の成功で得た資金を高度成長期の韓国の不動産開発などに投資し、グループ売り上げが9兆円を超える財閥に飛躍。武雄氏を頂点にして、長男の宏之氏が日本事業を、次男の昭夫氏が韓国事業を補佐する体制が構築された。
「兄弟げんか」が始まったのは15年1月。当時、ロッテHDの副会長だった宏之氏が昭夫氏ら他の経営陣と対立し、突如、解任されたのだ。同7月には宏之氏を支持して昭夫氏解任に動いた武雄氏も代表権を剥奪され、昭夫氏がロッテグループの経営権を掌握した。
その後、宏之氏は反撃に出る。16年3月、自ら招集した臨時株主総会で昭夫氏ら全経営陣の解任を要求。同6月の定時総会でも同様の株主提案を行った。さらに17年6月の定時株主総会は自身の役員選任も提案したが、いずれも否決された。
ロッテは現在、お家騒動に続く第2の激震にも襲われている。韓国での昭夫氏に対する刑事裁判だ。韓国検察は17年4月、朴槿恵前大統領への贈賄罪で昭夫氏を起訴した。今年2月の贈賄を巡る一審判決は昭夫氏に2年6月の実刑判決を言い渡し、直後に昭夫氏は収監された。その後、昭夫氏は混乱の責任をとり、ロッテHDの代表権を返上している。
昭夫氏の収監後、最初の総会となる今回、宏之氏は従業員持ち株会などに対して「経営の正常化」を訴え、支持を求めたが実らなかった。総会後、宏之氏は「ロッテHDのコーポレートガバナンスが依然として機能していないことは明らか。ロッテの企業価値やステークホルダーの利益を保護するため、引き続きロッテグループの正常化を求めていく」とのコメントを発表した。
HD取締役留任、上場審査で問題視も
創業家間の争いが勃発して以降、ロッテは昭夫氏主導でガバナンス改革を進めてきた。15年8月には初の社外取締役を選任。複雑な株式の持ち合い関係がある日韓グループ会社の再編にも着手した。今年4月にはロッテHD傘下の製菓事業3社を合併して新生ロッテを発足させ、生え抜きの牛腸栄一氏が同社社長に就任した。
牛腸社長は「新生ロッテの長期的目標は、社会的地位の向上につながる国内上場」と話す。ロッテの売り上げは約3500億円で、国内製菓業界では明治や森永製菓と並ぶ大手の一角を占め、営業利益率も8%前後と食品メーカーでも高水準。「『ガーナ』や『チョコパイ』などのロングセラーが強く、お家騒動後も店頭販売は落ちていない」(国内流通)。上場は組織の透明性を高め、さらなる成長に道を開く。
その道のりは平坦ではない。昭夫氏の韓国での裁判は現在、控訴審が進行中。あくまで無罪を主張する昭夫氏は徹底抗戦する構えだが、グループ経営を統率する昭夫氏の収監が長引けば、上場計画は停滞を免れない。有罪判決を受けた昭夫氏がHD取締役に留任することが、上場審査で問題視される懸念もある。
四たび敗れた宏之氏も、復権をあきらめていない。有罪判決を受けた昭夫氏が取締役に留任しているため、会社の信用が毀損されているとして他の取締役の責任を追及することも視野に入れている模様。自身の解任を不当とし、ロッテHDに損害賠償を求める裁判も継続中だ。
国内屈指の製菓メーカーとして大きな潜在力を持つロッテだが、創業家がもたらす混乱に翻弄される状況が続く限り、一般の投資家の信頼を得るのは困難だ。上場の実現にはお家騒動の集束と、脱創業家依存のさらなるガバナンス改革が不可欠となる。
(松井基一、矢崎日子)