「批判を覆せるのは自分だけ」 GK川島奮闘
負けはしたものの、GK川島にとっては過去2戦のしくじりに始末をつける試合になったのではないか。
ミスをしたGKは孤独なものだ。「批判は当然。正しい批判も、正しくない批判も覆せるのは自分だけ」。この一心で、崩れそうになる自分を守りとおしてきた。
ポーランド戦では先発6人が代わった。主将の長谷部まで先発を外れてもゴールの番人は不動のまま。腕にキャプテンマークまで巻いていた。1つのミスから調子を狂わせるGKは多いが、川島が自分からゴールラインを割ることはない。35歳の最年長GKに対する西野監督の変わらぬ信任は、このメンタリティーを買ってのことだろう。
キックオフからややあって、ポーランドの速攻に危ない形をつくられるようになる。川島は味方のコーチングに大わらわ。野太い声でDFを動かし、時には帰陣に遅れた味方の尻ぬぐいでペナルティーエリアの外へ飛び出してクリアする。
最大の見せ場「ライン上のセーブ」があったのは32分。自陣に戻りながらの跳躍でクロスを捉えたグロシツキのヘディングシュートは、野球のチェンジアップみたいに意地悪な球筋だった。
「難しかったけど間に合わせるしかないから」。"外角低め"にストンと落ちる球にバットを伸ばし、ファウルで三振を逃れるように右手1本で払いのける。1得点したのと等価のセービング。FKからベドナレクにフリーで飛びこまれた59分の失点がなければ、マン・オブ・ザ・マッチに選ばれたかもしれない。
西野ジャパンが始動して1カ月。「自分のパフォーマンスにはまったく満足していない。どこかで断ち切らないと」と深い懸念を抱いていた。それでも監督から意見がましいことを言われたことはない。それどころかポーランド戦の前日の記者会見に陪席を命じられ、一夜が明けるとキャプテンマークを渡された。「色々な意味を込めていたんだと思う」。それがこの監督のやり方だった。
前日の記者会見で川島は言っていた。「前の試合で仲間に助けられた。次は自分が助けたい」。好セーブが過去の失敗まで消してくれるわけではない。だがその重みを引き受けた川島は、決して孤独ではなかったようだ。
(ボルゴグラード=阿刀田寛)