西野ジャパン、底力引き出した采配の妙
2大会ぶり決勝T進出
「監督、雰囲気ありますよね。うまくいっていない状況のなかで最後の親善試合(パラグアイ戦)でメンバーを思い切ってガラリと変え、W杯の舞台では(意表を突く)オフサイドトラップ。なかなかできることではないと思う」。にわか代表監督のはずの西野監督に対する好感を、吉田が感心したように語る。
本番までの3度の強化試合はシステムもメンバーもコロコロ変えた。内容が伴わず、懐疑的な声が上がっても「危機感? 持たなくちゃいけないですか」と平然としていた。テストはあくまでテスト、と妙に肝が据わっていたとみえる。これで大丈夫かと気をもむ周囲の心配もよそに。
W杯直前に乾が際だった動きをみせると、それまでの切り札の扱いから左MFの先発へ昇格させた。安定感の出てきた昌子にはCBを、配球が光った柴崎には中盤を、天王山の初戦でも託すことをためらわない。上向きの選手を見極め、起用する決断が的確だった。
ベテラン不要論に流されず、香川や本田にも役割を自覚させた。「体を張れる人、ゲームをつくれる人、ベテラン。各ポジションにバランス良く配置されている」と岡崎。選手にそう納得させる適材適所で各人の持てる力を発揮させた。
そこではマイナス要素にみられた「高齢」も経験という資産に変わった。「相手FWの人数をみて、ボランチが最終ラインへ下がるか、SBがどの位置を取るか、全員が試合中に確認しながらできている」。組織として統率されている様子を長友が証言する。これは分析スタッフによるアシストも大きい。セネガル戦の得点には「右SBの裏が空く」という確度の高い情報が生きていた。
初戦コロンビア戦は走行距離上位5人のうち4人が日本選手で、走り負けていない。コンディショニングスタッフとは同じ日本人同士、同じ目線で意見交換できる。大会前に練習強度を上げすぎてピークを合わせられなかった前回ブラジル大会の教訓を、聞き入れる度量が監督にはあった。
この日本人監督は「この素材じゃ欧州風の一級料理は作れない」と嘆かず、冷蔵庫にあるあり合わせの材料でひとかどの一品を仕立てるかのように、日本の底力を短期間で引き出してみせた。
(岸名章友)