西武・今井が歩む道 禍福はあざなえる縄のごとし
編集委員 篠山正幸
若い人にとって、順風満帆であることが、いいことなのかどうか。右肩痛などの経験をバネにし、プロ初登板、初先発で勝利を飾った西武の2年目、今井達也(20)のデビューに、「禍福」が交互に巡る人生の不思議を見る思いがした。
2016年夏の甲子園、栃木・作新学院のエースとして優勝投手になった今井は楽天・藤平尚真(横浜高)、広島・高橋昂也(埼玉・花咲徳栄)、ヤクルト・寺島成輝(大阪・履正社)の3投手とともに「高校ビッグ4」と呼ばれ、同年のドラフト1位で入団した。
■「ビッグ4」でしんがりの1軍
藤平は1年目の昨季、勝ち星を挙げ、高橋昂、寺島も順調にデビューするなかで、今井はしんがりの1軍見参となった。
1年目のキャンプ、甲子園のスターは新監督、辻発彦体制の目玉として、1軍スタートとなった。しかし、初日に右肩の不調を訴え、2軍へ。1年間はまず自分の体と向き合わなければならなかった。
加えて、今年早々発覚した成年に達する前の喫煙問題。球団からユニホームを着用しての練習の禁止、対外試合への出場自粛などの処分を受けた。
ユニホームを着られないことが、どれほどの重みを持つのか、処分として重いのか軽いのか、一般には感じがつかめないかもしれない。だが、戦う者の集団のなかで、君は戦闘要員ではない、ということを意味するユニホーム着用禁止は相当こたえる処分とみていいだろう。
この謹慎期間、野球ともう一度じっくり向き合い、基礎体力づくりにいそしんだ、と今井は言う。
不祥事はプロとしての自覚に欠けた、という一点によるもので、完全な自己責任。ペナルティーを乗り越えたことを美談にはできないが、若いうちはだれだって過ちを犯すことがある。同じく初登板で初勝利を挙げたライオンズの先輩、松坂大輔(現中日)も、不祥事で出演していたCMを全部降板するなどの失敗をしたことがあった。あの一件はスター選手として守らなくてはならないことを、松坂の胸に刻みつけたことだろう。
軽挙を戒める薬になるのであれば、今井の場合も、無意味な経験ではなかった、ということになる。
禍福はあざなえる縄のごとし――。それは今井がすでに高校時代に経験したことでもあった。
優勝した夏の大会の直前、今井はかつてなかった不振に見舞われ、紅白戦でも打ち込まれる状態だったそうだ。大事な大会前、少しでも体力を温存しておきたいところだが、今井は冬場のような走り込みを敢行。その効果があったものかどうか、奇跡的に復活したのだそうだ。
■若いときの苦労は買ってでも…
また、これは人為的な試練だが、高校の小針崇宏監督から「140キロ禁止令」を受けたこともあったという。今井の球が速すぎて三振ばかりだったので、打たせて取る投球も身につけねば、と課されたものだった。障害物競走のようなことをしながら、一回り、もう一回り、と大きくなってきた様子がうかがえる。
若いとはいえ、甲子園優勝投手ともなれば、相当の場数を踏み、修羅場をくぐってきている。そうした経験値が発揮されたのが、初登板となった13日のセ・パ交流戦、対ヤクルトの一戦だった。
四回裏に逆転してもらって上った五回のマウンドも、勝ち投手の権利などまったく意識しないかのように、平然と投げた。高校を卒業して2年目の投手の落ち着きではなかった。
経験しなくてよかった苦労を含め、相当のブランクがありながら、2年目で勝利を挙げられたこと自体、今井という投手の器の大きさを示すものだろう。そしてその器は相応の負荷をかけて研磨されてこそ、本物となるのに違いない。
プロ2戦目となった23日のロッテ戦は3点を先行してもらいながら、3四球で招いたピンチに井上晴哉に逆転満塁弾を喫して、プロ初黒星がついた。雨のなかで制球を乱し、試合自体も五回表の終了をもって成立、コールドとなる不運だった。
しかし、これもまた勉強で、長い目でみて、ポンポンと勝ち星がついてくるよりは、よかったかもしれない。何より、今井の歩みそのものが「若いときの苦労は買ってでもしなさい」という先人の言葉を説得力あるものにしている。