トライアスロン「福」山「元」気に 福元哲郎さん
語る ひと・まち・産業
■トライアスリートの福元哲郎さん(46)は中学時代に陸上3千メートル走で広島県大会2位となり、高校・大学で数々の駅伝で名をはせた。三原市職員と競技者の二足のわらじで「三原の鉄人」と呼ばれたが、一層の飛躍を期して3年前に退職し、岡山との県境の福山市に移住した。
「青山学院大の原晋監督など陸上界の要人を数多く輩出している広島県立世羅高校にスカウトされ、大学にもスポーツ推薦で入った。だが、僕は陸上では『全国大会クラスの選手』だった。大学でトライアスロンに出会い『これなら(世界に)行ける。日の丸を背負って戦える』と感じた」
「福山市の人口は三原市の5倍。地域の経済力の差は歴然で、道路の整備状況なども違う。例えばトレーニングに使う河川敷。三原はすぐ草ボウボウになるが、福山は年中走れ、すごいと感じた。練習環境の良さが移住を決めた一因だ」
■だが、福元さんが感動したことを地元の人は当たり前と受け止めがち。胸を張って「福山はいい」と言う人になかなか出会えず、もどかしさが募った。
「どこか熱量が足りないと感じた。微力ながら福山トライアスロン協会の設立に協力し、競技を定着させようと活動してきたのも、そんな思いと無縁ではなかった。トライアスロン大会を開くと人が変わり、街も変わる。例えば遠征の先々で仲間ができ、『うちに泊まれ』と誘われる。東日本大震災で被災した仙台の農家からはイチゴが届いた。本来は僕が何かしてあげる側なのに。新潟ではお茶屋さんの茶室に泊まった。沖縄の人は車を貸してくれた。福山でもそんな変化が起きてほしい」
「大会には大勢の人が来る。自治体も準備に励む。福山でも、自転車コースに最適な道が整備された。放置され荒れていたのが嘘のようだ。鞆の浦の眺望が素晴らしいこの道は、観光客を呼び込むツールになる」
「自分をきちんとマネジメントし、3種目しっかり練習してスタートまで持っていくのがトライアスロンだ。これはある意味、経営に通じる。多忙な経営者ほど挑戦したがる理由がそこにあるのだろう。鞆の浦で、こうした人向けの合宿を企画してはどうか」
「トライアスロンに限らず、スポーツで福山を盛り上げたい。例えば市民対抗大運動会。やれば、まず子どもたちが熱くなる。そして大人も。そうした中で様々な活性化への取り組みが熱を帯び始める」
■地場産品を扱う「ぬまくま夢工房」の役員として特産品を売ったり交流サイトに福山の魅力を投稿したり。「福山を元気にすると書いて『福元』だ」と笑う。
「地元のいいものを人脈を生かして全国にPRしている。商品のQRコードには福山の情報も入れた。食品は運動能力の向上につながる重要な要素。アスリートに好まれる商品を開発してみたい。各地を訪れた際には、特産品がどのように売れているのかを見聞きし、参考にしている」
「9月にオーストラリアで行われる世界選手権に出る。腱板断裂した肩を手術したばかりで本調子ではないが、日の丸を背負って走る姿を見せ、福山の人に元気や笑顔を届けたい」
《一言メモ》地域おこしの目玉に
福山市で10日、第2回せとうち福山~鞆の浦トライアスロンが開かれた。昨年を上回る男女約390人が参加しスイム1.5キロ、バイク40キロ、ラン10キロに挑んだ。
福元さんは45~49歳の部で1位。参加者からは「バイクコースの眺望が良かった」「沿道の応援が励みになった」「来年も必ず出る」などの声が聞かれ、福山ファンが増えたようだ。
主催した福山トライアスロン協会(天野肇理事長)は2016年1月に発足。5月に日本遺産に指定された景勝地・鞆の浦などを舞台にスポーツを通じて地元の魅力発信を図る。
トライアスロンは現在、各地の地域おこしの目玉となり、年間約100大会が開かれる。一方、尾道市の大会は今年休止に。ボランティア確保や長時間の交通規制などの課題を地域全体で乗り越える必要がある。(福山支局長 増渕稔)