国際大会初Vの車いすバスケ男子 東京パラへ弾み
車いすバスケットボール男子日本代表が6月8~10日に武蔵野の森総合スポーツプラザ(東京・調布)で行われた国際大会「三菱電機ワールドチャレンジカップ(MWCC)」で初優勝を果たした。2016年リオデジャネイロ・パラリンピックで9位に終わっていた日本だったが、MWCCでは同6位のオーストラリアなど3チームに4戦全勝。リオ大会以降、トランジッション(攻守の切り替え)をキーワードにチームをゼロから再建してきた成果が形となり、確かな手応えをつかんだ。
■切り替えの速さ意識
大会には日本、豪州のほか、リオ大会8位のドイツ、同11位のカナダが出場した。各チーム総当たりの3試合を全勝した日本は、10日の決勝で豪州と2度目の対戦。65-56で破って優勝を決めると、集まった約5千人の観客から大歓声が上がった。20年東京パラでも車いすバスケットが行われる会場で結果を残し、及川晋平ヘッドコーチ(HC)は「こうした大会で全勝するのは史上初では。自信にして次に進みたい」と興奮気味に話した。
4試合を通して日本のスタイルは明確だった。味方がシュートを放つと全員がすぐに守備へと意識を切り替え。相手コート上から車いすを密着させて動きを止め、ボール運びすら簡単に許さない。特に9日の豪州との1度目の対戦ではこのプレスが面白いように決まった。自陣で8秒以上ボールを保持するバイオレーションを何度も奪うなど、わずか44失点に抑え込む快勝だった。
「海外のバスケットは高さやサイズが武器で、守備はゆっくり戻るだけだった」と及川HCは語る。リオ大会でもチームを率い、体格で劣る日本が同じ土俵で勝負してもかなわないことを痛感。「日本にも世界で戦える武器が必要」と取り組んできたのが、運動量を生かしたトランジッションの早いバスケットだった。
全試合で守備からリズムをつかむと、攻撃では速攻から多くの得点が生まれた。センターの藤本怜央(34、宮城MAX)がゴール下でリバウンドを拾うや、フォワードの鳥海連志(19、パラ神奈川スポーツクラブ)やガードの香西宏昭(29、NO EXCUSE)らがスピードで相手を置き去りに。ロングパスからのレイアップシュートが何度も決まった。
■体力強化が最終盤に生きる
3連勝で迎えた10日の決勝。日本に2度続けて負けるわけにはいかない豪州は目の色を変えてきた。1戦目の反省を踏まえ、持ち点「3」で機動力に優れた選手を3人スタメンで起用(車いすバスケットでは障害の程度に応じて持ち点が1.0~4.5点まで設定され、コート内の5人の持ち点の合計を14.0点以内にする必要がある)。プレスをかいくぐろうとの狙いだったが、日本は慌てない。上からプレスを仕掛ける時間帯だけでなく、メンバーを大きく変えて引いて守る時間もつくるなど「こちらから変化をして、相手にリアクションを取らせた」(香西)ことで主導権を渡さなかった。
この作戦がじりじりと相手の腕の力を奪っていることを日本の選手たちは実感していたようだ。最終第4クオーターの初めに6連続失点で逆転されても、直後のタイムアウトで「相手の心は折れかかっている。しっかりコンタクトしていこう」と確認。最終盤でぽろぽろとシュートを落としてノーゴールに終わった豪州に対し、香西や主将の豊島英(29、宮城MAX)の動きは最後まで止まらない。連続得点で一気に突き放した。
ぎりぎりの局面でも落ち着いていられたのは、リオ大会以降に徹底して体力強化を進めてきたからだと全員が口をそろえる。代表合宿では時に朝食前から練習を行う「4部練」を敢行。10分間走のタイムや車いすをこぐ際のパワーをスタッフが個別に測定して「見える化」し、強化ポイントが明確になったという。長年チームをけん引してきた藤本は「東京パラでメダルを取れるバスケットを確信できた」とチームの成長に目を細めていた。
■若手の成長も収穫
今大会のもう一つの好材料は若手の台頭だろう。リオ大会では選外だったガードの古沢拓也(22、パラ神奈川スポーツクラブ)は3点シュートが武器で先発したドイツ戦とカナダ戦ではいずれも12得点。同じく23歳以下の代表から上がってきたガードの岩井孝義(21、富山県WBC)は持ち点「1」ながら、チームにフィットした動きを見せ、及川HCは「スピードも判断もいい」と高く評価する。
今季の最大の目標は8月の世界選手権(ドイツ)での4強入りだから、MWCC優勝だけで満足はしていない。「強豪国は今まで日本を準備体操程度にしかみていなかったが、これで本当の敵としてみられるはず」と指揮官は気を引き締める。20年東京大会でのメダル獲得に向け、本当の挑戦はここからだ。
(鱸正人)