データで比較 サッカー日本の戦い方の変遷
現地時間の6月14日夜、開幕したサッカーのワールドカップ(W杯)ロシア大会に6大会連続出場を果たした日本代表はここにきて大きく路線を変更したようだ。本大会2カ月前になって電撃的な監督交代が断行され、誕生した西野朗新監督はデータ上からもハリルホジッチ前監督とは際だった違いを浮き立たせている。
各種スポーツのデータ分析を手掛けるデータスタジアム社の集計から、日本代表のスタイルの変遷を探ってみた。図は、4年前のブラジル大会アジア予選を戦ったザッケローニ監督、ロシア大会のアジア予選を戦ったハリルホジッチ監督、そして就任してからガーナ、スイス、パラグアイと戦った西野監督のそれぞれにどんな傾向があったことを示すものである。
対象はW杯最終予選と「西野ジャパン」の3試合で、ロシア大会の1次リーグで対戦するコロンビア、セネガル、ポーランドのW杯最終予選のデータとも比較した。各国が予選で対戦した国すべての数値も含めて偏差値化したもので、「ボール支配率」「ゴール前への進入」「敵陣でのボール奪取」「カウンター」「サイド攻撃」「セットプレー」の6項目で戦い方の違いを探った。
例えば、「ザック・ジャパン」の特長がボールの支配率にあったことは一目瞭然だ。アジア最終予選全体を通じて支配率の平均値は58.2%で、「ハリル・ジャパン」の48.1%とは段違い。相手のペナルティーエリア内にボールを入れ、同エリア内でプレーができた回数を示す「ゴール前への進入」は1試合平均19回。アジア予選のレベルを割り引く必要はあるものの、この数字は今回のコロンビア、ポーランド、セネガルを上回る。要約するなら「よくつなぎ、よく攻めた」チームだったと言えよう。
ハリルホジッチ前監督は、ザック・ジャパンが美徳としたことに真っ向から異を唱えた感じ。ボール支配率の異様なまでの低さにそれは如実に表れている。一方で「カウンター」(ボールを奪ってからシュートまでの時間が10秒未満のシュート数)と「敵陣でのボール奪取」(敵陣でボールを奪って守備から攻撃に切り替わった回数)に優れた数字を残した。ゴール前への進入回数も1試合平均18回とザックジャパンに迫る。攻撃の経路がサイドからに偏りすぎたきらいはあるが、前監督が常に強調した「デュエル(1対1の戦い)」「縦に速い攻め」はそれなりに実践されていたのだろう。
ただ、その強圧的なスタイルは、アジアでは通用してもプレスをかいくぐることに慣れた欧州勢やブラジルにはするりとかわされて終わり、監督の進退問題を招くことにもなった。
西野ジャパンはどうか。監督就任からの3試合をもとに分析すると、「サイド攻撃」(シュートの前の1~3本目のパスのサイドからの割合)が6項目の中で突出している以外は、何やら漂うのは中庸のたたずまい。「遅攻も可」としたザック・ジャパン。ボール支配率は勝利に直結せず、相手陣内でのショートカウンターに活路を開こうとしたハリル・ジャパン。そういう極端に針が左から右に振れるプロセスの中で、ある種の揺り戻しとして、右でも左でもない、中道としての西野政権が誕生したとデータからもうかがえるのではないか。
ロシアで日本と対戦するライバル国にはどんな傾向があるのか。まず、意外なのはH組で最強と思われるコロンビアの六角形の小ささ。これはコロンビアが弱いという意味ではなく、おそらく、ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、チリなどの強豪がとぐろを巻く激烈な南米予選では、あのコロンビアでさえ窮屈な戦いを余儀なくされるということなのだろう。コロンビアの「ゴール前への進入」は1試合平均12回、これはザックジャパンやハリルジャパンより少ないものの、南米予選のアルゼンチンの8.5回を大きく上回る。ちなみに南米予選のブラジルでも13.5回だ。
2戦目で当たるセネガルはボール支配率の高さとカウンターという相反する要素をチーム内に同居させているように思える。
1次リーグ最終戦で激突するポーランドはゴール前への進入(1試合平均18.5回)とカウンターに特長があるようだ。ボールを奪ってから10秒未満にシュートを打った回数は1試合平均2.3回で2.7回のハリルジャパンに次ぐ。敵陣でのボール奪取にはそれほど熱心ではないようでもある。むしろ相手を自陣内に引き込んでから強力なカウンターを発動させるのが得意技か。日本としてはロングカウンター対策が必須に思える。
(武智幸徳)