長江実業、豪企業の買収提案 1.1兆円、事業の多角化加速
【香港=木原雄士】香港の不動産大手の長江実業集団などの企業連合が豪ガスパイプライン大手APAの買収を提案したことが13日、分かった。買収総額は約130億豪ドル(1兆1千億円)に上る可能性がある。長江和記実業(CKハチソンホールディングス)など長江グループは著名な実業家、李嘉誠氏が引退した後も、事業の多角化やグローバル化を加速する。
買収を提案したのは長江実業に加え、インフラの長江基建集団、電能実業(パワーアセッツ)。いずれも李嘉誠氏が影響力を持っていた長江グループの企業だ。グループは5月に李嘉誠氏の長男の李沢鉅(ビクター・リー)氏に代替わりしたばかり。ビクター氏にとって初めての大きな経営判断になる。
APAはオーストラリアに1万5千キロメートルに及ぶガスパイプラインを持ち、同国のガス供給の半分を担っている。長江グループは不動産に依存した収益構造から、安定した利益が見込めるインフラやエネルギー事業へのシフトを進めている。APAの買収はこうした多角化路線に沿ったもので、地理的リスクも中国本土や香港から分散できる利点が見込める。
長江グループは2017年に豪エネルギー大手デュエット・グループを買収しており、豪州でのエネルギー事業を一段と拡大する。
提案によると、長江実業などはAPAの全株式を1株あたり11豪ドルで買い取る。これは12日の終値に3割ほど上乗せした水準。13日のオーストラリア株式市場でAPAの株価は急上昇した。
長江実業の担当者は13日「提案は初期段階だ」として、APAの資産査定に加え、主要な株主や豪州政府の同意が買収の前提になるとの考えを示した。APAは13日、株主に対し「現段階では(株式売却など)いかなる行動も取らないことを薦める」との声明を出した。
豪政府は電力公社オースグリッドの民営化を巡り、16年に長江基建集団などへの売却を「国家安全保障上の利益」を理由に拒否したことがある。APAは長江側から「豪外国投資審査委員会(FIRB)と豪競争消費者委員会(ACCC)に資料を提供し、議論をしている」と伝えられたとしている。