サムライ人気、曲がり角? 好収益も募る危機感
熱狂の裏側 変わるサッカービジネス(上)
サッカーのワールドカップ(W杯)開幕まであと1日。だが、前哨戦でのふがいない試合もあってか、日本代表にひと頃の熱狂はない。少子化の影響もあって、ボールと戯れる子供も減りつつある。一方で、スキャンダルに揺れた国際サッカー連盟(FIFA)は、ビジネス界の巨人の手を借りてW杯大改革を狙う。サッカーは、どこへ向かおうとしているのか。
昨年10月、横浜の日産スタジアムで行われたハイチとの親善試合。前日会見で日本代表のハリルホジッチ監督(当時)は異例とも言える呼びかけを行った。「チケットが余っている。多くのサポーターに来てほしい」
■視聴率低下、競技人口も減少
6大会連続のW杯出場を決めたオーストラリア戦から1カ月余り。本大会へと国民の関心も高まるはずが、当日の観客数は4万7420人と収容人数の7割程度。4年前、同時期・同会場の親善試合に満員のサポーターが押し寄せたことを考えれば、寂しい状況だった。
"史上最強"とうたわれた「ザックジャパン」が2014年ブラジル大会で1次リーグ敗退に終わり、日本中が失意のどん底に落とされた。あれから4年。本田圭佑(パチューカ)、岡崎慎司(レスター)ら主力がピークを過ぎた一方で、新戦力の台頭は遅れ、世界ランキングも大きく下げた。
この間、スポーツ界には錦織圭、大谷翔平らニュースターが続々と誕生。20年東京五輪が近づき、「世間の関心は卓球など他競技に移り始めた」と日本サッカー協会の須原清貴専務理事は警戒する。W杯出場が当たり前となった今、サッカーに国民が向ける視線は厳しくなりつつある。
ビデオリサーチ社によれば、ロシアW杯アジア最終予選の平均視聴率は17.4%で、ここ7大会のうち南アフリカ大会に次ぐ2番目の低さ。昨年末の東アジアE-1選手権は海外組が不在とはいえ、韓国戦では9.7%と1桁台に落ち込んだ。
親善試合の放映権料は1試合2億円程度で、現状は黒字が続く。だがW杯直前でも盛り上がりをいまひとつ欠く状況に、各テレビ局は気をもんでいる。「10~15%の視聴率をこのまま保てればいいが……」と民放関係者。
対照的に協会の収益は好調だ。昨年度は過去2番目の約200億円で、スポンサーなど代表関連が7割を占めた。15年にはアディダスジャパンと、約8年で推定二百数十億円で契約更新した。
16年にはKDDIがスポンサーの仲間入り。同社の馬場剛史宣伝部長は「挑戦者のイメージが魅力的。ブランドの好感度は上がっている」。VR観戦の提供など、独自の試みも始めている。
1978年から協会を支えるキリン。ウェブ調査では同社のサッカー支援の認知度が約4割と、40年に及ぶ関係を企業イメージ向上につなげる。ブランド戦略部の泉伸也氏は「これからも軸をぶらさず応援し続けたい」と話す。
とはいえ、日本協会の須原専務理事は「今後の契約を楽観視はしていない」と危機感を募らせる。協会の独自調査によれば、代表の関心度はここ10年減少傾向で、ブラジルW杯前から約10ポイント低下。サッカー離れが進めば、企業の顔色が変わる可能性もあり得る。
競技人口は14年度をピークに下降し、小学生年代は17年度までの5年間で12%減少。少子化による小学生児童数の減少率4.7%より落ち込みが激しい。「他の競技に比べて、新規ファン獲得の試みが弱かった」と須原氏。協会はSNSの活用やスタジアムのエンタメ化と、見せ方の工夫に思案を巡らせる。
同じように下馬評が低かった8年前の南アフリカ大会は、勝ち進むにつれ日本中を熱狂の渦に巻き込んだ。決勝トーナメントのパラグアイ戦は50%超の視聴率を記録した。「こんな爆発力のあるコンテンツは他にない」(テレビ関係者)と期待する声はなおやまない。
W杯で勝てばまた熱狂の風が吹く。しかし、競技の土台を耕し、未来の代表選手を育てる次の「戦い」が待つ。