遺伝子編集で生産増、ブドウ使わぬワイン
アグリテック・サミット 世界の実力
農業とテクノロジーを融合した「アグリテック」を主題にした「AG/SUM(アグサム) アグリテック・サミット」(主催・日本経済新聞社)は開催2日目の12日、国内外のスタートアップ26社が事業モデルを競い合うピッチコンテストを開催した。遺伝子技術や人工食料を手がける高い技術力を持った企業の登壇が目立った。
とがった技術、資金調達カギ
ピッチコンテストには米国の9社を筆頭に日本から8企業・団体、トルコやオランダなど計10カ国から参加し、日経賞などを計7社が受賞した。
注目度が高かったのが遺伝子の編集技術で作物の収量向上を実現したアグリバディ・テクノロジーズ(米)だ。作物の寿命を延ばす遺伝子を増やし、逆に早く腐らせる遺伝子を減らすことで、収量を20~45%向上させたり、収穫後の寿命を2~3倍に伸ばしたりできるという。ジェリー・ファイテルソン社長は「遺伝子組み換えの規制に触れない技術で汎用性が高い」とアピールした。
昆虫を使ったユニークな「インセクテック」を披露したのがムスカ(福岡市、串間充崇社長)だ。イエバエの幼虫を使い家畜の排せつ物から肥料と飼料を精製する技術で、串間社長は「世界の人口増加で予想される飼料不足に対応できる」と力を込めた。量産体制構築に向けた資金調達への参加を呼びかけた。
食品や飲料の培養技術を持つ企業も目立った。ブドウを使わず発酵の必要もないワインを開発したアヴァ・ワイナリー(米)のアレック・リー社長は「既存のワイン産地にこだわらず世界中、いつでもどこでもワインを生産できる世界が来る」とする。
ただアグリテックはIT(情報技術)やサービス系スタートアップと違い、技術開発や事業化に時間がかかるという課題がある。ピッチを審査した米ベンチャーキャピタル(VC)、ワールドイノベーションラボの梶原奈美子ベンチャーパートナーは「とがった技術を持つスタートアップが大きく成長するためには資金調達がカギを握る。長期的な視点を持つ投資家をつかまえることが重要だ」と指摘した。
日本の生産性向上、切り札はIT・ロボ
世界で勃興するアグリテック。日本勢は存在感を発揮できるのか。12日の講演や討議では最前線にいる起業家らが日本の強みと課題を提示した。新興国や途上国では食糧需要の膨張が予想される一方、国内は狭い農地、労働力不足、耕作放棄などの日本特有の問題が山積する。IT(情報技術)やロボットによる生産性向上は喫緊の課題となっている。
「日本農業の夜明け」がテーマの討議では、エムスクエア・ラボの加藤百合子代表取締役、オプティムの菅谷俊二社長、農業総合研究所の及川智正社長、NTT研究企画部門の久住嘉和担当部長、慶応義塾大学の神成淳司教授が登壇した。
オプティムは豆の生育管理でドローンと人工知能(AI)を組み合わせ、害虫が検知された場所にピンポイントで農薬を散布する仕組みを開発している。先端技術の活用がキーポイントで、菅谷社長は「日本がスマート農業先進国になる一端を担いたい」と話した。
エムスクエア・ラボは農家や野菜を使うレストラン向けの物流シェアリングサービスを手がけるほか、雑草処理ロボットの開発に取り組む。加藤氏は農業の生産性が低い理由として「製造業で広がる生産性向上のノウハウが採り入れられていない」と指摘。農家の意識改革の必要性を示した。
調査会社の富士経済によると、農業用のドローンやロボット、環境制御装置などを含むスマート農業関連の国内市場は2017年に46億円。25年には2.7倍の123億円となると予測する。
スマート化進展には、新技術への抵抗感や費用負担が課題となる。農業総合研究所の及川社長は同社のサービスに高齢の利用者がいることを紹介し「使うと楽しい、もうかるということを理解してもらえれば(新技術は)広がる」と話した。
[日経産業新聞 2018年6月13日付]