日本版NCAAが機能するために必要なもの
編集委員 北川和徳
日本大学アメリカンフットボール部の悪質タックル問題では、2019年春に設立予定の学生スポーツの統括組織「日本版NCAA」(仮称)にも注目が集まった。設立の音頭をとるスポーツ庁の担当者も「これまでにないほど学生スポーツの改革に関心が高まっている」と話す。
大学のスポーツ部は組織としてのガバナンス(統治)が利きづらいためしばしば不祥事が発覚する。学生の自主的な課外活動とされ、大学側が直接的な関与を避ける傾向にあるためだ。安全対策の不備による事故も少なくない。日大はスポーツを使ったブランディングを積極的に展開しており、スポーツ部への大学の関与は高いのだが、実際のアメフト部の運営は大学の常務理事でもあった前監督が独裁的に行っていた。その意味ではガバナンスの利かない典型的な日本の大学のスポーツ部だったともいえる。
■モデルの米国と全く異なる事情
スポーツ庁によると、日本版NCAAは全国の200大学と40の学生競技団体での設立を目指している。かなり大規模で多数のスポーツを網羅した組織になりそうだ。とはいえ、統括組織ができればそれで日本の大学スポーツの改革が実現に向かうというわけではない。モデルとした米国とは事情がまったく違う。
米国の学生スポーツではアメフトやバスケットボールの花形カードはプロに負けない人気を誇る。本家NCAAは100年以上の歴史があり、各スポーツのリーグ(カンファレンス)やそこに参加する大学を指導する強い権限を持つ。年間約1000億円の収入があり、安全対策やスポーツと学業の両立する環境整備に取り組む。また、人気チームを持つ大学は試合のチケット、スポンサー料などで資金を稼ぎ、それをスポーツを含めた学内施設の拡充に投資する。一部の大学にとってスポーツチームが大きな収入源となっている。アマチュアである学生選手から報酬を要求する声があがるなど、商業化の行き過ぎが問題となっているほどだ。
日本の学生スポーツで将来、こんな状況が実現するだろうか。個人的には永遠にありえないと思っている。
規模はまるで違うが、日本でもチケット料などで稼げる学生の試合はある。ただ、収入は連盟・リーグが管理し、チーム側に一部を分配しても大学に入ることはない。学生チームでも人気が高ければスポーツ用品メーカーと契約して資金を得ることもできる。ここでも原則として大学は関与しない。
昨今はスポーツ部の広告効果を重視する大学も増え、練習施設を整備してかなりの運営資金を提供する大学もあるが、通常は学生の部費、OBからの寄付などを含めたチームの予算全体は把握していない。その傾向は伝統校になるほど強い。
■連盟・リーグから相当な抵抗も
別に日本の学生スポーツを米国のような巨大ビジネスにする必要はないだろうが、現状のままでは大学側がスポーツへの関与を強めようとしても、資金的にも人的にも負担が増えるばかりだ。学校とスポーツ部、連盟・リーグとの関係をつくり直して資金の仕組みも再構築しなければ、画期的な変化は期待できないだろう。ただ、それをやろうとすれば、連盟・リーグから相当な抵抗が予想される。
日本版NCAAの設立時の目標とされる200大学、40の学生競技団体とは、スポーツ庁のアンケート調査に参加の意向を示した学校、団体の数だという。そこで将来のあるべき姿は目標として共有されているのだろうか。既得権を切り崩し、新たな負担を背負う覚悟がないと改革は進まない。
(2020年東京五輪開幕まであと772日)