チケット最適価格はAIに聞く 三井物産・ヤフー新会社
三井物産は4日、ヤフーなどと共同で、需要と供給に応じて価格を変える「ダイナミックプライシング」のサービス事業を始めるため新会社を設立したと発表した。スポーツ観戦チケットなどで、人工知能(AI)を使い、消費者は席がすいていれば安く購入でき、興行主は稼働率を高められる。IT(情報技術)を活用して適正料金を探る動きが広がってきた。
新会社ダイナミックプラス(東京・千代田、平田英人社長)の資本金は約10億円で、三井物産が62.6%を出資した。ヤフーは34%、チケット販売大手ぴあも3.4%出資した。
欧米でダイナミックプライシングの事業を営む米ニュースター(バージニア州)の技術を使う。スポーツ観戦チケットの場合、販売実績やチームの順位、試合の曜日や天候に関するデータをAIで分析し、1試合ごとに座席の価格を決める。
三井物産は2017年にプロ野球のソフトバンクホークスとヤクルトスワローズの試合の一部で実験し、需給に応じチケット価格を変えた。新会社は6月からサッカーJ1の横浜F・マリノスの試合にシステムを提供する。システムの提供やデータ分析の対価として収入を得る。
AIは空席が多くなりそうなときは価格を下げ、消費者に購入を促す。首位攻防戦など人気が高い試合は価格を上げる。定価5000円の席が、条件によって4000円になったり6000円になったりする。
スポーツのチケットは一般に、シーズン開幕前に決めた一律料金で販売する。ただ、活躍の状況などにより試合ごとに売れ行きの差が出てくる。システムで価格を柔軟に変え、消費者が「その価格なら買ってもよい」と考える料金を示す。
新会社はコンサートなどイベントの興行主にも需給変動型の料金の採用を提案する。駐車場やホテル、物流サービスなど特定の時期に需要が集中しやすい分野でも利用を促す。
需給連動型の料金は航空業界で先行している。ANAホールディングスや日本航空は航空需要の高い時期や曜日、過去の搭乗実績などをビッグデータとして解析して値段を決める。そのため年末年始など旅行や帰省で飛行機を使うことが多い時期は運賃が比較的高くなる。閑散期には可能な範囲で運賃を引き下げ、需要を喚起する。
航空機は1便当たりの座席数が決まっており、空席が出ても在庫を保存しておけない。そのため限られた席数の中で料金を変動させて、収益を最大化させる管理手法が浸透している。
ホテル業界も同様の経営課題を抱える。ホテル経営分析を手がけるスタートアップ企業の空(そら、東京・渋谷)はAIを使い、ホテルが料金設定を最適化できるサービスを展開する。周辺の競合ホテルやイベントの開催状況をネット上で自動収集する特徴があり、1年先までの設定料金を毎日提案する。
松村大貴社長は「経験や勘に頼りがちなホテル業界の業務を効率化できる」と話す。
タクシー業界は18年度、需給に応じ迎車料金を変える実験を予定している。タクシーの利用は曜日や時間帯、場所、天候で左右される。運賃そのものは認可制で柔軟に変更するのが難しいため、迎車料金で試す。
需給による料金設定は海外で積極的に活用されている。米ウーバーテクノロジーズが米国など各国で配車サービスの料金を決める際に、近隣の車両数などに応じて料金を変動させている。
需要と供給の状況に応じて価格を変動させる技術やサービス。需要が集中する時期は価格を上げて需要を抑え、閑散期は値下げして喚起する。航空やホテルの価格決めに導入され、電気料金での活用が検討されている。AIの予測精度が上がっており、様々な産業で広がる見込み。