米、劇場型デジタル外交 米朝協議を実況ツイート
トランプ大統領、ポンペオ国務長官
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長の側近、金英哲(キム・ヨンチョル)党副委員長の米国訪問はデジタル外交の様相を呈している。トランプ大統領やポンペオ国務長官がツイッターで実況。通常はベールに包まれる北朝鮮高官の外国訪問の足取りがほぼ同時刻に明らかになるという劇場型の展開だ。(ワシントン=永沢毅、ソウル=恩地洋介、国際アジア部=押野真也)
「首脳会談に向けた優先事項を議論した」「良い進展があった」。5月31日昼、英哲氏とニューヨークでの2日間の協議を終えたポンペオ氏はツイッターに立て続けに投稿した。記者会見で説明する前に会談内容を発表した。
首脳会談の6月12日開催をめざして再調整が進む米朝高官協議。日程が固まるまではその内容を公にしないのが外交の作法だ。
今回のデジタル外交により、関係国の外交官も、一般の市民も協議の雰囲気や内容をほぼ同時に知る。本来なら外交官しか知り得ない情報も一瞬にして手に入れられる。これは情報の格差破壊と平準化を意味する。
米国内外に慎重論がある米朝首脳会談に向けた世論形成なのか、北朝鮮への揺さぶりなのか、その両方なのか。トランプ氏は5月31日朝、記者団に「北朝鮮との協議はうまくいっている」と語った。
6月1日に英哲氏が自身への金委員長からの書簡を携えてワシントンを訪ねると表明した。英哲氏はトランプ氏と面会する方向だ。
特異なのは劇場型という点だけではない。2010年の韓国哨戒艦沈没事件などの国際テロ事案に関わった疑いで制裁対象となっている金英哲氏の入国を容認した。ジョン・F・ケネディ空港からは航空機係留場から直接、迎えの車でマンハッタンのホテルに直行した。
高官協議は国連本部近くの高層マンションで開き、ポンペオ氏は30日夜にヒレミニョン・ステーキやイタリア原産のチーズなどを供する夕食会でもてなした。米国務省もホームページに協議の写真を載せ、手厚いもてなしぶりを強調した。
北朝鮮の最高指導部の訪米は2000年10月、金正日(キム・ジョンイル)総書記の特使としてクリントン大統領と会談した趙明禄(チョ・ミョンロク)国防委員会第1副委員長以来、18年ぶりだ。
金正日氏の親書を持参した趙特使は米朝の敵対的関係の解消などを提案した。その後にオルブライト国務長官(当時)が北朝鮮を訪問し、クリントン氏の訪朝実現まであと一歩のところまで迫った。
米朝関係筋によると、31日の米朝高官協議は予定よりも2時間早く終わった。「話すべきことは話した」。ポンペオ氏は会見で主張したが、その中身までは明らかにしなかった。