AI開発のシナモン、9億円調達
人工知能(AI)開発のシナモン(東京・港)が10億円近い大型調達に成功した。社長の平野未来氏は東京大学大学院在学中に起業したことがあるシリアルアントレプレナー(連続起業家)で、技術系の女性起業家のロールモデルとして注目されている。
英国際会計事務所アーンスト・アンド・ヤング(EY)が1~3月にネットを通じて実施した世界21カ国・地域2766社の中堅企業調査によると、女性起業家の52%が「外部から資金調達できない」と回答。男性起業家の30%を上回り、性差による見えない壁の厚さが浮き彫りになった。
シナモンはこれを、ユニークな着眼点と技術力で突破したと言える。販売する「フラックス・スキャナー」は契約書や請求書などのPDFやワード文書、手書き資料をAIが読み取りデジタルデータで集計・出力できる。これまで定型文書の読み取りサービスはあったが、不定型文書の読み取りサービスは珍しいという。
ほかにも企業向け音声認識ソフト「ロッサボイス」を開発中。業務に必要な専門用語に強いのが特徴で、認識精度を95%まで引き上げる目標だ。
今回、SBIインベストメント、FFGベンチャービジネスパートナーズ、伊藤忠テクノソリューションズ、ソニーのコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)ソニーイノベーションファンド、TISを引受先とする約8億円の第三者割当増資を実施した。また、みずほ銀行、三井住友銀行から約1億円の融資を受けた。8月末までに第三者割当増資による2億円の追加調達も予定している。
平野氏は情報工学専攻の大学院生だった2006年にSNS(交流サイト)向け広告配信サービス会社を設立した。11年に同社をミクシィに売却した後、12年にシンガポールでシナモンを創業。当初の写真共有アプリ開発事業を転換し、17年からAIを活用した業務代行ソフトを開発している。
「面倒な事務作業を全てAIで代替し、人がよりクリエーティブな仕事ができる未来を創りたい」と語る平野氏。調達した資金は販路拡大やAI技術者の確保に充てる。国内のAI人材の不足が懸念される中、ベトナムの研究拠点の技術者を22年までに現状の約8倍の500人に引き上げる計画だ。(京塚環)
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