米朝、事前折衝が会談左右 板門店・シンガポールで同時進行
【ワシントン=永沢毅、ソウル=恩地洋介】6月12日の開催をめざす米朝首脳会談が2週間後に迫るなか、米朝の実務者協議が本格化した。非核化の時期や北朝鮮の体制保証のあり方、核弾頭の国外搬出方法などを主要議題にどこまで一致点を見いだせるかが会談の行方を左右する。ただ、米政府内には「時間切れ」による会談見送りを予想する向きも出ている。
実務者協議は南北軍事境界線にある板門店の北朝鮮側施設「統一閣」で29日まで開かれる見通し。非核化を巡る米朝の実務者協議は初めて。
これまでは韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長による2度の南北首脳会談や、ポンペオ米国務長官の2度の訪朝など高い政治レベルでの協議が中心だった。「非核化」の必要性など総論では一致するものの、工程表や検証方法など実務者協議で各論をどこまで詰められるかが、今後の米朝会談の実現やその後の合意内容を占うことになる。
米国側の代表団を率いるのはソン・キム元駐韓大使(現駐フィリピン大使)。国家安全保障会議(NSC)のフッカー朝鮮部長や、ポンペオ国務長官による2回目の訪朝に同行したシュライバー国防次官補も参加する。
キム氏は国務省の朝鮮部長や北朝鮮担当特別代表などを歴任、ブッシュ政権で6カ国協議の首席代表を務めた。2005年に同協議で北朝鮮の核放棄を盛った共同声明をまとめた際の米代表団メンバーで、核問題に通じた専門家の一人だ。
北朝鮮側は対米交渉に長く携わってきた崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官が参加する。完全で検証可能かつ不可逆的な非核化(CVID)に言及したペンス米副大統領を談話で批判し、トランプ大統領からの怒りを買った人物だ。
崔氏は03年から08年まで6カ国協議に出席した北朝鮮首席代表の通訳を務めた。崔永林(チェ・ヨンリム)元首相の娘とされ「上司より偉い通訳」ともいわれた。ソン・キム氏とは6カ国協議のころから旧知の仲だが、16年に北京で開かれた国際会議では、非難の応酬を繰り広げる場面もあったという。
協議では米朝会談の実現に向け、米国が唱える短期間の「完全な非核化」と、北朝鮮が主張する段階的な「朝鮮半島の非核化」の認識の差を埋める必要がある。米側は国際原子力機関(IAEA)による査察受け入れや、核関連施設の公開、核弾頭の搬出などに北朝鮮が応じない限り、首脳会談の環境は整っていないとの立場をとる。
一方、北朝鮮側の条件は、金委員長が26日の南北首脳会談で不安を吐露した「体制保証」を担保することだ。朝鮮戦争の終戦宣言といった政治的な宣言にとどまらず、実質的に米国との敵対関係を終息させる措置を求めるとみられる。
並行して開くシンガポールでの実務者協議では、会談日程や儀典、警護態勢などを話し合う事務的な協議が行われる見通し。米側はレーガン、ブッシュ父・子の各政権でホワイトハウスに勤務したベテラン、ヘイギン大統領次席補佐官が出席。北朝鮮側は金委員長の「執事」と呼ばれるキム・チャンソン国務委員会部長が28日夜にシンガポール入りしたとみられている。
関係国の動きも活発だ。韓国政府は6月12日の米朝首脳会談の直後に、米南北3カ国による首脳会談を開く検討に入った。米朝が非核化をめぐって何らかの合意に至った場合、朝鮮戦争の終戦を3首脳が宣言することを想定している。