日大アメフト部前監督らが会見で失ったもの
編集委員 北川和徳
日大アメリカンフットボール部の選手が危険な反則タックルをした問題は、当該選手とそれを指示したとされる前監督、前コーチの主張が真っ向から食い違う展開となっている。20歳の学生と、大学の経営幹部でもある前監督やその側近の前コーチとの対立。どちらが正しいのかに誰もが関心を持つだろうが、その結論はすでに出ているようだ。記者会見の内容を振り返ってみると、やはり具体的で矛盾のない選手の説明の方が真実を語っているという印象を受ける。
反則タックルをした宮川泰介選手の記者会見は、22日に日本記者クラブで行われた。同クラブでは原則、弁護士は同席できないが、今回は彼の年齢を考慮して特例で認められた。私も出席したが、弁護士が発言に介入するのは数えるほどで、ほとんど記者会見の進行に影響はなかった。
質疑応答では個人的に注目した場面が2回あった。最初は「(タックルの前にゲームを止める)審判の笛は聞こえていたのか」の質問に、彼が「(相手QBが)投げ終わっていたことには、気づいていました」とはっきりと認めたとき。試合中の傷害事件として彼の刑事責任を問うには重要な事実だ。逃げるのではなく、処罰されるのを覚悟しているとうかがわせた。
次は「あのときに戻れたら、今度はどうするのか」と問われたとき。それまで「いかに指示があったとしても、やった自分が悪い」と繰り返していた。「次は絶対にやりません」と即答すればいいのに、言葉に詰まってしばらく考え込んだ後、「わかりません」となった。精神的に追い詰められた当時の心境がよみがえって混乱してしまったのだろう。回答を用意しているのではなく、その場で真摯に考えて対応していると分かった。
日大側の23日の記者会見には出席できず、ネットのライブ配信で視聴しただけだが、対照的に説得力に乏しい内容だった。
ポイントとなる「なぜ、最初の反則の後、すぐに選手を代えなかったのか」という質問には「見ていなかったから」(内田正人前監督)、「私の判断ミス」(井上奨前コーチ)。核心部分は「間違っていた」「覚えていない」などと逃げるかはぐらかした。刑事事件の捜査への対策なのか、「監督は指示していない」「QBを潰せとは言ったが、けがをさせるという目的ではなかった」の2点だけは譲れないと決めているようだった。
井上前コーチは「定期戦がなくなってもいい」「相手QBがけがをして秋の試合に出られなかったら得だろう」という発言を最初はきっぱり否定したのだが、「それでは彼がうそをついているということか」と迫られると、動揺して支離滅裂となり、「彼の言っていることは間違っていない」「私が過激な言葉でプレッシャーをかけた」など、ほとんど認めたような説明になった。宮川選手に負い目を感じているとはっきり分かった。
内田前監督からの指示があったのかまでは判断する材料がないが、前コーチから相手QBにけがをさせろと受け取られる言葉があったことは間違いないだろう。
日大の記者会見では、宮川選手に過度なプレッシャーをかけたことを2人とも否定しなかった。理由は有望選手なのでさらに成長してほしかったからだという。その結果、宮川選手は「僕にはフットボールをやる権利はない。この先やるつもりもない」と言うことになった。2017年の学生日本一になったチームの指導者たちが、ハラスメントによって過度な試練を与えることこそアスリートの成長につながると信じているのが悲しい。
日大は24日、反則行為の詳細な経緯などについての再回答書を関西学院大に提出した。内容は当然、前日の記者会見と同じだろう。監督とコーチ1人が辞任する程度で関学大が納得するわけがない。関東学生アメリカンフットボール連盟1部リーグ所属の各校も、現状のままでは秋季リーグでも日大との試合は拒否することで一致した。同連盟が下す処分もかなり厳しいものになりそうだが、それ以前に戦う相手がなくなれば自動的に無期限の出場停止と同じことだ。信頼ができない相手と試合などできない。それはある意味でスポーツの正しい姿かもしれない。