選考解禁直前、プロに聞く「これぞ面接の流儀」
お悩み解決!就活探偵団2019
学生から寄せられる質問で、この時期、最も多いのが面接対策だ。経団連企業の選考解禁が6月1日に迫っているだけに、学生の不安の種は尽きない。そこで就活探偵団では、各界で活躍する3人から話を聞いた。テーマは面接に勝つための「心・技・体」。プロフェッショナルの金言に耳を傾けてほしい。
■接客のプロ「無難こそ基本」
まずは心・技・体の「体」から。面接における振る舞いや身だしなみについて、帝国ホテルのホテル事業統括部でサービスアドバイザーを務める石原峻さんに聞いた。
ホテルマンとしてのキャリアは実に50年を超えるベテラン中のベテラン。国内外の一流ホテルや高級レストランなどの現場を熟知している。2005年の愛知万博の際にはトヨタ自動車に出向して、賓客の接遇指導を担当したほどだ。
そんな石原さんにポイントを聞くと、「無難であることです」とやや意外な答えが返ってきた。
「振る舞いや身だしなみが過剰になれば、必ず違和感が生まれる」ためだ。つまり「背伸びは不要」。例えば服装では、普段スーツを着慣れない学生が高級ブランドで背伸びをしようとすると、初々しさが損なわれ、逆効果になるという。
といっても、リラックスしすぎた無頓着な状態もよくない。「社会人の世界に入るとドレスコードが変わります。最低限の基本は守ってほしい」とくぎを刺された。
話す際は「視線を相手の目に向け、アゴを少し引く」ことを意識する。これで、学生らしい、ほどよい緊張感と誠意が伝わりやすくなる。
服装で大切なことは清潔感だ。石原さんの休日はワイシャツのアイロンがけと靴磨きに当てられるという。学生も、ワイシャツの襟や袖に汚れやシワがないか、スラックスにはきれいな折り目がついているか、そうした基本を大切にしたい。
言葉遣いも同様だ。慣れない敬語を無理に使いこなそうとしても、言いたいことが伝わらないばかりか、丁寧すぎていんぎん無礼と受け止められるかもしれない。
石原さん自身もホテルの現場では最低限の丁寧さを守りながらも、フランクなお客には少しくだけて、礼儀を重視するお客にはより丁寧にと、相手が心地いいと思う距離感を意識するそうだ。
石原さんは最後に「初心忘るべからず」とエールをくれた。石原さんの言う「無難」という言葉には「基本に忠実」という意味が込められている。「最初から奇をてらうことはやめた方がいい。基本を繰り返した先に応用がある」
■営業のプロ「人対人でぶつかれ」
さて、2人目は「技」。話を聞いたのは、サイバーエージェントの小倉真吾さんだ。
面接で勝ち残るには、限られた時間の中で面接官を口説き落とし、自分の価値を認めてもらう必要がある。ビジネスパーソンの仕事でいえば、営業職に近いものがある。そこでネット広告の敏腕営業マンとして数々のコンペを勝ち抜いてきた小倉さんに秘訣を明かしてもらった。
小倉さんは04年に同社に入社。新人時代に自ら新規開拓した大口クライアントを長年担当。その後は営業局長として、営業しつつ部下の管理もこなすプレイングマネジャーの役割も経験している。そして昨年春からは、新規顧客開拓の戦略策定を担うエグゼクティブアカウントプランナーとして現場に舞い戻った。
小倉さんが常々心がけているのは、「顧客企業との『人間対人間』の関係をいかに構築するか」だという。小倉さんは「顧客企業は、仕事を発注する相手がプロなのか、それとも『下請け業者』なのかを厳しく見定めようとしている」と述べる。
「相手に対するホスピタリティーや謙虚さはもちろん大事だが、単なるご用聞きでは、お互いの利益にならない」と言うのだ。つまり、ただのイエスマンでは人間対人間の対等な関係は期待できないという分析だ。同社で採用活動の面接官の経験もある小倉さんは、この考え方は面接にもそのまま当てはまると見ている。
「表面的な受け答えでその場を取り繕ったり、相手に気に入られようとしたりしても、すぐにばれる。この人は会社には必要ないとその場で判断される」と断言する。
もちろん採用するかどうかを決めるのは企業だ。企業の方が学生よりも立場は強いが、だからといって、上下関係を意識し過ぎてこびへつらう必要はないという。
「自分をさらけ出し、強みや弱み、信念、やりたいことなど自分本来のメッセージを伝えなければ、信頼関係は築けない」。それは小倉さんが自分自身や周囲に常に言い聞かせていることだ。
では、どうすれば自分の言いたいことを効果的に伝えられるのか。
小倉さんは駆け出し時代、論理的に話すことが苦手だったという。「おまえは何が言いたいのかわからない」と上司に繰り返し叱られたそうだ。
そこで徹底的に仕込まれたのは、(1)結論から話す、(2)「5W1H」で考える、(3)抜け・漏れ・重複を避ける、(4)ただしプライベートでは、嫌われかねないので普通に話す――の4点だという。
これらを前提に、質問をある程度想定し、「簡潔に答えられるように」考えを整理しておくことを小倉さんは勧める。
また「自分の話す内容が事実なのか、仮説なのか、臆測なのかを区別し、相手に正しい情報を伝えることが重要」とも。これは就活のみならず、ビジネスパーソンの配慮としても必要なことだ。
実際のやり取りでは、想定外の質問を投げられることもあるだろう。相手の質問の意図をさりげなく聞き返したり、時には「わからない」とはっきり答えることも、状況によっては好印象になるそうだ。「何が言いたいのか、何が聞きたいのか、お互いにわからないまま時間が過ぎるのが最悪な状況だ」という。
小倉さんからのエールは「強い信念で企業にぶつかってほしい」。
■心のプロ「本番は非日常」
最後に「心」。園田学園女子大教授で、スポーツ心理学者の荒木香織さんに話を聞いた。
荒木さんは15年のラグビーワールドカップで、日本代表チームのメンタルコーチを務めた経験を持つ。五郎丸歩選手らの活躍で強豪・南アフリカを破る金星を挙げた、あの代表チームの躍進を陰で支えた。
荒木さんは「スポーツの試合も面接も、本番でパフォーマンスを上げるという意味では軸は同じ」と見る。そして「準備の仕方を工夫すれば結果は出せる」とも。
そんな荒木さんが指摘するのは「普段通りとは思わないこと」という。スポーツの指導者の中には「平常心を保て」「普段の練習通りにやれ」などという人もいる。しかし、荒木さんは「それは間違い。試合も面接もそうだが、本番は非日常なのだから、平常心を保とうとしても無理」と言い切る。
では、どうやって面接の本番に臨めばいいのだろうか。
「非日常なのだから、ドキドキすることも、うまくいかないことも当たり前。失敗したらまた別の企業を受ければいいと思わないと。結果にこだわり過ぎるとむしろうまくいかなくなる」。
荒木さんはまず長期的なビジョンやシナリオを作ることを提案する。プロのアスリートにとっても一つひとつの試合はもちろん重要だが、ある試合で負けても勝ってもその後もアスリート人生は続く。長い目で見たうえでその試合でどんな結果が出せるかが重要だという。面接も同様だ。
例えば、「ミスしてもこれだけは伝えたい、なし遂げたいという目標は設定した方がいい」という。面接時に自分が一番強調したいポイントをあらかじめ絞っておき、そこを確実に伝えられるように経験を重ねる。それが勝利への近道になるとも。「負けたら全否定ではない。ここは良かったという点を少しずつ積み重ねるイメージ」だ。
そのためには、「自分の持ち味や長所をしっかり分析して、アピールポイントを考えることが大事」という。自宅の鏡の前などで繰り返し口に出して練習する。その際はイメージを本番に近づけるため、言葉遣いはもちろん、服装もパジャマでなくスーツに着替えることがポイントとも。
荒木さんは「1度の失敗を恐れず、スキルを少しずつ身につけるつもりで向き合えばいい」という。荒木さんのエールは「暗いトンネルでも出口は必ずある」。ラグビー代表チームのように、積み重ねた先に、栄光の勝利をつかみたい。
(北爪匡)
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