香港の富豪、李嘉誠氏が引退 投資家に惜しむ声
後継の長男「大きな変更ない」
香港の複合企業大手、長江和記実業(CKハチソンホールディングス)と不動産大手の長江実業集団は10日、それぞれ株主総会を開き、両社の主席を務めていた李嘉誠氏(89)が現役を引退した。後を継ぐ長男の李沢鉅(ビクター・リー)氏(53)は李嘉誠氏が築いた事業の骨格を維持する方針を表明した。株主からは一代で巨大な財閥を築き上げた「超人」の引退を惜しむ声が相次いだ。
「46年間、株主総会に参加できて感激だ。ありがとう」。李嘉誠氏は総会会場のホテルに集まった100人を超す記者団にこう語った。引退後はグループ顧問に就くと同時に、教育など慈善活動に力をそそぐ。
李嘉誠氏は香港を代表する経営者で、アジアの大富豪としても知られている。第2次世界大戦後に「ホンコンフラワー」と呼ばれる造花事業で成功し、不動産や通信、インフラ事業などに次々手を広げた。香港ではその歩みを経済成長と重ね合わせる市民も多く、総会に出席した40代の女性株主は「彼の引退を受け入れたくない」と話した。
ただ、李嘉誠氏の引退後に経営が大きく変わるとの見方は少ない。後を継ぐ長男のビクター氏は20年以上、副主席としてグループ経営に携わってきたためだ。長男への後継指名は2012年。次男はすでにグループを離れて独自に事業を展開しており、激しい跡目争いは起きなかった。
ビクター氏は総会に先立つ9日、「父とは30年以上、一緒に働き、いまも同じ家に住んでいる。(経営に)大きな変更はない」と強調。李嘉誠氏も総会後に「ビクターの能力を信じている」とコメントした。10年以上、株式を保有しているという50代の男性は「李氏は引退に向けた準備をしてきた。大きな問題は起きないだろう」と語る。
李嘉誠氏はここ数年、不動産よりも安定した利益が見込めるインフラや通信事業に力を入れ、グローバル展開によってリスクも分散している。米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスの全佳氏は「多様な事業と安定した実績がある」として、CKハチソンの格付けを現行のA2(シングルAに相当)に据え置いた。
ただ李嘉誠氏はこれまで巧みな経営手腕で数々の危機を乗り越えてきた。全佳氏は「李氏は引退後も顧問としてM&A(合併・買収)など戦略的な決定にかかわり続けるだろう」と話す。香港は中国本土との経済的な結びつきが強まり、新興企業も台頭してきた。ビクター氏は父の路線を継承しつつ、成長分野を開拓できるかが課題となる。
香港メディアは10日、89歳の李嘉誠氏が早朝に自宅で運動する姿を伝えるなど「超人(スーパーマン)の引退」を大々的に取り上げた。とはいえ李氏は「あすもオフィスに行く」と記者団に健在ぶりをアピールするのも忘れなかった。
(香港=木原雄士)