マレーシア 初の政権交代へ マハティール氏、首相に
【クアラルンプール=中野貴司】1957年の独立以来、与党連合の支配が続いたマレーシアで初の政権交代が実現する見通しとなった。9日投開票の連邦議会下院(定数222)選挙で、マハティール元首相が率いる野党連合の希望連盟が過半数を獲得した。先進国入りを目前に経済成長が停滞するなか、不満を強めた国民が政治の刷新を求めた。92歳のマハティール氏は10日にも、2003年の退任以来15年ぶりに首相に返り咲く見込みだ。
選挙管理委員会によると、野党連合は提携する地域政党と合わせて121議席、野党連合だけでも過半数の113議席を獲得。与党連合・国民戦線の79議席、イスラム主義政党、全マレーシア・イスラム党(PAS)の18議席を引き離した。国営通信社も野党連合の勝利を報じた。
マハティール氏は10日未明の記者会見で「10日中にも首相就任の宣誓式に臨む」と勝利宣言した。同日中に国王の任命を取りつけ、第7代首相に就任したい考えだ。マハティール氏は81年から03年まで22年間、マレーシアを高成長に導いた。世界でも異例の92歳という高齢での再登板となる。
野党連合は今回の総選挙で、ナジブ政権の汚職体質を強く批判。15年の消費税導入後、物価上昇に苦しむ中低所得層らに政権刷新の必要性を訴えた。都市部の支持者に加え、与党連合の地盤だった地方のマレー系有権者らにも支持を拡大した。下院選と同時に実施された12州の議会選挙でも、南部のジョホール州などで次々と議席を奪還し、地滑り的な勝利を実現した。
ナジブ氏が率いる与党連合は、低所得者への現金給付の拡大や地方のインフラ整備など多くのばらまき策を打ち出したが、支持者の離反は止まらなかった。強権が際立っていたナジブ政権を国民が選挙で倒したことは、マレーシアの政治にとって大きな転機となる。
高齢のマハティール氏は10日未明、現在服役中のアンワル元副首相の恩赦を国王に申請し、認められれば早期に首相職を譲る考えを改めて示した。ただ、アンワル氏が首相に就くには、まずは国会議員になる必要があるため、一定の時間がかかるとみられる。政権運営の経験がない野党連合が、マハティール氏の下で政治や経済を安定に導けるかが課題となる。
1人当たり国内総生産(GDP)が約1万ドルに達したマレーシアにとって、先進国入りを前に経済成長が滞る「中所得国のワナ」からの脱却が急務になっている。低賃金の外国人労働者や政府系企業に依存しており、民間企業の成長が遅れている。
マハティール氏は過去の首相時代に国民車育成構想を掲げたが、実現のハードルは高く、ナジブ政権は国産車メーカー「プロトン」の株式の約半数を中国企業に売却した。国民は豊かさを実感できず、不満を募らせている。