シャワーの水、浄化し9割再利用 WOTAが開発
水は人が生活する上で欠かせない資源だ。WOTA(ウォータ、東京・文京、北川力社長)は、使用済みの水を浄化した上で循環する仕組みを家庭レベルで実現する装置を開発している。老朽化した上下水道の維持に腐心する自治体、水不足に悩む国々は多い。自由に水を使うことができるエリアを広げる一大プロジェクトに、スタートアップが挑む。
市販部品を利用
東京・本郷の東京大学の近くにある年季の入ったビル。2017年10月、駐日アラブ首長国連邦大使がここを訪れた。目当てはWOTAのオフィスだ。同社が開発中の個人向けの水の浄化システム「レインボックス」を視察した。パイプが入り組んだ構造をしておりサイズはスーツケース大。「日本に住んでいるとピンと来ないかもしれないが、世界では水不足は大きな問題となっており関心が高い」(北川社長)と手応えを話す。
WOTAは14年に東京大学の大学院に在学中だった北川氏が同級生らと立ち上げた。独自のろ過フィルターを開発しているわけではなく、市販のフィルターとセンサーを組み合わせ、自社開発のソフトウエアを活用。センサーから集めたデータで水の流量や汚れ具合、温度などを測定すると、水質の状態やフィルターの汚れ具合を予測できるようになる。事業化の際にはフィルターの汚れ具合から利用料金をはじき出す仕組みを描く。
シャワーや洗面用では既に技術を確立した。「体を洗うのに使うシャワーの排水であれば、せっけんやシャンプーなどの汚れを分離して9割以上を再利用できる」(北川氏)という。電源は必要だが、上下水道につながっていなくても、100リットルの水があれば約50回シャワーを浴びられる。
目指しているのは、シャワーや洗面台に装置とシステムを接続して使う仕組みだ。複雑な工事は不要。家電を置くような感覚で、1日で水道のインフラを整備できるようにするという。太陽光発電や蓄電システムなどで電源さえ確保できれば、孤島のような場所でも水を使える。水源や上下水道に依存する必要がなくなり、人間の生活エリアが未開の地に広がる可能性も出てくる。
北川氏の理念に賛同したミスルトウ(東京・港)の孫泰蔵社長は支援を買ってでた。4月に孫氏らが開業した東京・渋谷にあるスタートアップらの交流施設でもWOTAの装置が設置されている。今夏をメドにさらに小型化した試用版の装置を量産して、有償で実際に消費者に使ってもらう予定だ。製品化に向けシャワーブースの共同開発の募集も近く始める。
北川氏が水に興味を持ったのは、07年にさかのぼる。地元石川県で起きた能登半島地震で、被災地周辺ではライフラインが一時絶たれた。人間の生活にいかに水が欠かせないか痛感し、それ以降、石川工業高専などで水の研究にのめり込んだ。
大学院に進学し水処理に力を入れる会社への就職活動も検討したが、関心があったのは企業が手がける大規模な事業というよりも、個人消費者向けの小さなビジネス。思うような事業を手がける企業は見つからず、既に就職していた同級生の奥寺昇平取締役らに声をかけて、起業を決めた。
熊本地震で提供
16年4月に起きた熊本地震では、トラックの荷台にシャワーブースをくくり付けて、東京から被災地に駆けつけた。「プライベートな空間で浴びるシャワーと公衆浴場では、疲れの取れ方が全く違う」。被災した人からの声に、事業化の意義を感じた。
実用化にはまだ課題もある。現在は1台数十万円かかる。実用化の段階では量産効果で手ごろな水準に引き下げる構想を描く。
さらに、現時点では再利用できる水の種類が限られている。今の技術レベルでは台所やトイレの排水などは浄化できない。フィルターで除去するだけでなく、微生物を使って分解して浄化する技術が必要になるという。生活で使う全ての水をまかなうには、もう一段のブレイクスルーが必要で、外部との共同開発も視野に入れている。
北川氏は「水が貴重な中東や国土が広い米国から強い関心が寄せられているが、日本も決して人ごとではない」と指摘する。高度経済成長期に整備が進んだ上下水道は老朽化に直面し、近い将来、莫大な更新コストが必要になる。また、人口減少が進めば、限界集落のようなインフラそのものの維持が難しいエリアも広がっていく。
WOTAの開発ステージがひとつ上がるたびに、その存在感と社会的な期待がぐっと増してくる。 (若杉朋子)
[日経産業新聞 2018年5月2日付]