南北首脳、融和演出 米朝会談へ地ならし
金正恩氏、笑顔振りまく
【ソウル=鈴木壮太郎】南北首脳が27日、軍事境界線がある板門店で10年半ぶりに対面を果たした。午前9時半前、事前の予定通りの時間に姿を現した金正恩(キム・ジョンウン)委員長は文在寅(ムン・ジェイン)大統領と軍事境界線を挟んで向かい合い、がっちりと握手した。北朝鮮の最高指導者として初めて軍事境界線を越えた後の首脳会談では「失った11年を取り戻し、前に進むためここに来た」と強調。韓国側関係者にも笑顔をみせ、融和ムードを演出した。
「私が北側に行けるのはいつになるでしょうか?」
「それでは今、行きましょうか」
軍事境界線を越え、韓国の地を踏んだ金正恩氏に文氏が語りかけると、金正恩氏はこう応じ、文氏の手をとって軍事境界線をまたいで北側に入り、再び南側に向かった。何度も境界線をまたぐという当初予定になかったサプライズは、南北を隔てる障壁は克服できるという意味を込めた演出の一環とみられる。
この後、金正恩氏は韓国軍の儀仗(ぎじょう)隊による敬礼を受けた。韓国軍が敵である北朝鮮の指導者に敬礼するのも初めてだ。
金正恩氏は続いて任鍾晰(イム・ジョンソク)大統領秘書室長、趙明均(チョ・ミョンギュン)統一相ら文政権の幹部と握手。文氏も金正恩氏の妹の与正(ヨジョン)朝鮮労働党第1副部長、金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長ら北朝鮮の幹部と握手した。
両首脳は徒歩で会談場所となる「平和の家」に移動。金正恩氏は机に座って芳名録に「新しい歴史は今より。平和の時代、歴史の出発点で」と書き込み、会談場に入場した。軍事境界線から会場までの距離は130メートルほどだが、芳名録にサインする金正恩氏は息切れしているようにみえた。
金正恩氏と文氏は歩きながら会話を交わし、笑顔をみせた。南北首脳会談を成功させ、6月初旬にも予定される米朝首脳会談につなげるのが南北首脳に共通する思惑。両首脳は和やかなムードを演出し、米朝会談に向けた地ならしに努めた。
板門店から約30キロメートル離れたソウル郊外に設置されたプレスセンターでは両首脳の対面の様子が生中継された。金正恩氏と文氏が握手を交わした瞬間、拍手が起こった。
韓国側が事前発表したスケジュールを金正恩氏がほぼ守ったことにも各国の外交団から驚きの声が上がった。独裁者は暗殺などを恐れて事前の予定通りに行動しないのが通例。西側外交筋は「南北の信頼関係が強い表れだ」と分析した。