海外ブランド御用達 ルビーの存在感、ECで光る
有名海外ブランドがこぞって利用するIT(情報技術)サービス企業がある。ファッション電子商取引(EC)支援のルビー・グループ(東京・品川、桑野克己・最高経営責任者=CEO)だ。日本市場でのEC運営をモデル手配から決済までワンストップでサポート。高級ブランド御用達の「ファッションテック企業」として存在感を示している。
ブランドイメージを大切に
レイバンやディーゼル、フォリフォリ、ゲラルディーニ――。ルビーの顧客リストには世界の有名ブランドが並ぶ。
高級品を扱うラグジュアリーブランドに選ばれる秘訣は何か。答えの一つは事業を海外ブランドに集中することで培った、ブランドの世界観やビジネスモデルに対する理解。そしてもう一つはブランドのECを丸ごと引き受けるサービスの幅の広さと提案力だ。
「レイバン」のサングラスを扱うイタリア企業の日本法人、ミラリジャパン(東京・千代田)は2014年にレイバンの公式オンラインストアを立ち上げる際にコンペでルビーを選んだ。ミラリジャパンの酒井雄堂・Eコマースチームリーダーは「ラグジュアリーブランドのビジネスモデルを理解していることが決め手だった」と明かす。
ファッションブランドがEC展開を考える際、単に売り上げを伸ばすというだけでなく、ブランドのイメージを壊さず、育てるという視点も重視される。海外ブランドに集中して事業を展開してきたルビーは、こうした特徴を理解するとともに、本国とのやりとりや英語での契約など、外資企業独特のビジネス慣習にも精通している。
有名ブランドの採用が決まると「あのブランドが使っているなら」と評判を呼び、顧客が増えるという好循環が生まれている。現在は顧客の9割が海外ブランドだが、最近で国内からも声がかかるようになってきた。
ルビーが提供するのはサイト作りや運営だけではない。サイトへの集客方法やマーケティング、決済、配送、顧客管理など、ECサイト運営にかかわるほぼすべてのサービスだ。倉庫には撮影スタジオも併設。要望があればモデルも手配して商品の撮影を請け負い、ブランドのロゴを入れた包装も整えて商品を消費者に届ける。
「とくに力を入れるのは提案の部分」(桑野CEO)。単にECサイトの運営を担うだけではなく、「どうすれば売り上げを伸ばせるか」をともに考えて解決策を提案している。例えばスマートフォンの利用者がどこを触っているかを示す「ヒートマップ」を使って顧客の行動や関心を分析してサイトのUI(ユーザーインターフェース)に反映。ソーシャルメディアやインフルエンサーの活用、オンライン限定商品など、集客の仕掛けも提案する。
イタリアの有名ブランドの日本法人、ディーゼルジャパン(大阪市)のルイージ・メッザソーマ社長は「リスクを恐れず革新的なことに挑戦したいという考えを理解して一緒にやってくれる」とルビーを評価する。
取引高3倍に
現在、サイト運営から顧客サービス、決済、配送など幅広くルビーのサービスを利用。担当者同士が日々相談しながら、決済に「アマゾンペイ」を導入するなど新しい機能も積極的に取り入れている。
ルビー・グループは11年1月の創業。桑野CEO(54)は大手広告代理店などを経て、AOLジャパンの執行役員、国内外のファッションブランドのネット販売を手掛けるギルト・グループの日本法人社長などを経験した。前職でファッション業界にかかわるなか、「ECをやりたい」という相談を多く受け、ニーズを感じたのが起業のきっかけだ。
宝石のルビーとインターネットのプログラミング言語のルビーをかけて「ルビー・グループ」と名付け、「ファッションとインターネットの間で頑張っていく企業にしよう」との思いを込めた。創業直後に東日本大震災に見舞われるなど混乱もあったが、創業以来、売上高は右肩上がりで伸ばしてきた。
現在の顧客は約20社。業績も順調に伸び、17年の取扱高は3年前の約3倍に。今後、韓国や香港にもビジネスを広げていく予定だ。17年には創業期のグーグルやフェイスブックが受賞したことでも知られる、米レッドヘリングの「世界で注目を集めるテクノロジースタートアップ・グローバル100」に選ばれた。
今後の課題は急拡大する事業規模に合わせた人員増強や管理体制の整備だ。取扱高は17年も前年比6割超増えており、サービスレベルを落とさないためにも質の高い従業員の増強は急務だ。昨年からベトナムにも開発拠点を置くなど工夫もしているが、とくに技術者の採用が課題となっている。
「宝石」のようなファッションブランドのサイトづくりの黒子として、もう一回り大きくなれるか。挑戦は続く。(佐藤史佳)
[日経産業新聞 2018年4月20日付]