シリア化学兵器の国連調査、決議3案いずれも否決
安保理、欧米とロシア対立
【ニューヨーク=高橋里奈】国連安全保障理事会は10日、シリアのダマスカス近郊での化学兵器使用疑惑を受け、独立調査機関の新設を求める米国の決議案を否決した。ロシアが拒否権を行使。シリアのアサド政権を支えるロシアも同様の決議案を提出したが、独立性に疑問があるとして英米仏など7カ国が反対して否決した。欧米とロシアが鋭く対立し、化学兵器使用の実態を明かす国連調査の道は断たれた。
米国が作成し、英仏などと共同提出した決議案には安保理15カ国のうち12カ国が賛成したが、常任理事国のロシアのほかボリビアが反対。中国は棄権した。ロシアのネベンジャ国連大使は「米国案は旧調査機関の欠陥ある手法を再生産するだけだ」と批判、独立した機関とはいえないと主張した。
7日にダマスカス近郊の東グータ地区でシリア軍が化学兵器を使った疑惑が浮上、国際社会からは独立した機関による公平な調査を求める声が高まっていた。
シリア内戦での化学兵器使用をめぐっては、国連と化学兵器禁止機関(OPCW)の共同調査機関が証拠や使用者を調べてきた。だがアサド政権も使ったと断定したことから、ロシアが2017年11月に同機関の活動期間を延長する決議案に拒否権を行使し、活動停止に追い込んだ。
ロシアも米国案と似た独立調査機関の設立決議案を提出したが、「ロシアに調査員を選択する機会を与え、報告書が公開される前に安保理が調査結果を査定するという内容で、独立した公平な調査とは全くいえない」(米国のヘイリー国連大使)と欧米が反対。中国やボリビアなど6カ国が賛成したが、賛成票が足りず廃案となった。
このほかロシアはOPCWによる化学兵器が使われた疑いがある東グータ地区ドゥーマでの迅速な調査を歓迎する決議案も提出したが、英米仏などが反対。賛成票は中国やボリビアなど5カ国にとどまりこれも否決された。
3つの決議案がいずれも否決され、安保理が再び米ロの対立によって機能不全に陥ったことで米国による軍事行動の可能性が一段と高まったとの見方が出ている。