緊迫シリア、世界の火種に 米欧・ロシアの対立激化
【イスタンブール=佐野彰洋】シリア情勢が緊迫してきた。アサド政権の化学兵器使用疑惑をきっかけに、早期撤収も視野に入れていたトランプ米政権が英仏などとの軍事行動の検討に入った。米ロ二大大国の深まる対立が底流にあり、内戦の出口は一段と見えにくくなった。中東地域全体にも波及する可能性があり、世界不安定化のリスクにもなりかねない。
トランプ政権が軍事行動の検討に入る直接の引き金は化学兵器の使用疑惑だ。オバマ前大統領時代にも疑惑が発覚したが、攻撃を土壇場で見送った。トランプ氏はこの判断を強く批判し、昨年4月にアサド政権の化学兵器使用が疑われると、前政権とは対照的に単独攻撃に踏み切った。
今回も状況は同じだ。違うのはシリア情勢は昨年来、過激派組織「イスラム国」(IS)の勢力が弱まり、トランプ氏は財政負担などを理由に早期撤収を模索していた矢先だったこと。しかし昨年攻撃に踏み切った以上、今回の化学兵器使用疑惑を受けて攻撃を見送れば一貫性のなさを批判されるのは明らかだ。
軍事介入への関心が高まるのはシリア内戦が米ロの対立構図に絡むことがある。ロシアはソ連時代からシリアとの関係が密接で、アサド政権の後ろ盾となってきた。その後、米国の中東での影響力低下を受けシリア内戦への関与を強め、今回の化学兵器使用疑惑の裏にもロシアの存在があると米側は批判する。
しかも米ロの関係はすでに険悪だ。3月に英国で起きた元ロシア情報機関員殺人未遂事件では米国は欧州各国とともにロシアの関与を断定し、外交官を追放。2016年米大統領選へのロシアの干渉を巡る「ロシアゲート」疑惑でも捜査が続いている。14年のクリミア半島併合を受けた対ロ経済制裁は解除のメドも立たないままだ。
米国にとっては化学兵器使用疑惑を理由にシリアへの軍事行動に踏み切ることで、欧州各国とともにロシアへの国際的な圧力の強化につなげられるとの判断がある。加えてトランプ政権はロシアゲートなどで支持率は伸び悩み、秋の中間選挙での苦戦も指摘される。軍事攻撃は世論の視線をそらす口実にもなる。
冷戦崩壊後最悪とされる米ロ関係悪化の行き着く先は見通せない。シリアの内戦は米ロ対立に加えて、周辺各国の利害も複雑に絡む。トランプ政権も昨年は攻撃に踏み切ったが、一過性の措置にとどまったために事態は変わらなかった。今回もどこまで関与するのか予断を許さない。
こうした先行きの不透明感を背景に市場は揺れている。ロンドン、ニューヨーク両市場では原油先物価格が先週末から日本時間10日深夜までにそれぞれ4%強も上昇。米ロ対立の先鋭化の懸念でロシア株の動きを示すRTS指数が9日には前週末比で11%下落し、ウクライナ情勢が緊迫していた14年3月以来の大幅な下げを記録。ロシアの通貨ルーブルは対米ドルで約4%安と急落した。