日本シリーズ 崖っぷちでの快投 浜口遥大(上)
DeNA投手
ストライク1球ごとに横浜スタジアムが揺れていた。2017年11月1日。DeNAのルーキー浜口遥大が演じた快投はファンの記憶に深く刻まれた。
3連敗の崖っぷちで迎えた日本シリーズ第4戦。マウンドを任された左腕はソフトバンクの強力打線に堂々と立ち向かった。直球とチェンジアップを軸にアウトを重ね、無安打のまま七回を終えた。興奮のるつぼと化すスタンド。監督のアレックス・ラミレスの胸にはこんな言葉が湧いた。「VICTORY is within US(勝利は我々の内にある)」
八回1死。浜口は安打を許し、日本シリーズ初の偉業はならなかった。だがラミレスに舞い降りた言葉は今季のチームスローガンになった。20年ぶりの日本一を目指す18年のDeNAの起点はあの試合にある。
浜口は振り返る。「ホークスは本当に強かった。どこかで点が入ったら一気にひっくり返されそうな雰囲気があった」。だが恐怖心はなかったという。「ネガティブなことを考えないようにしたというより、自然に開き直れた。もともと試合に入ったらあまり考えないタイプなので」
投手全般に当てはまる「弱気は最大の敵」という傾向は浜口の場合、さらに顕著になる。代名詞はチェンジアップ。思い切り腕を振るのに、ボールがなかなかやってこないギャップで打者を惑わす。そこに不安が忍び込めばどうなるか。腕の振りが緩み、魔法はたちまち解けてしまう。
昨年5月、そんな状況に陥った。ふとしたことからリズムを崩し、四球で傷口を広げては恐る恐るストライクを取りにいって打たれた。3試合続けて5回もたずにKO。「自信を持てず、何となく試合に臨んでいた。期待に応えたかったが、どうしたらいいのか分からなかった」
自分を取り戻したのはその後の交流戦だ。投手コーチや捕手の励ましに勇気づけられ、白星がつくようになって自信が戻った。「僕は細かい制球力ではなく、腕を振って奥行きと緩急で勝負する投手だと再認識した」と浜口。昨季はセ・リーグ最多の69四球を与えた半面、9イニングに換算した奪三振率は9.9と先発トップクラスを誇った。粗削りな投げっぷりは若武者の特権でもあるだろう。
10勝を挙げたルーキーイヤーを「うまくいかない難しさも、投げて勝つ喜びも経験できた。とにかく密度が濃かった」と振り返る。2年目の目標は昨季より約40イニング多い投球回数160。左肩の違和感で出遅れたが、幸い軽症のもよう。程よい試練は成長の糧にもなる。(敬称略)
〔日本経済新聞夕刊4月2日掲載〕