ミャンマー、大統領に与党実力者 スー・チー氏一極集中に変化も
【ヤンゴン=新田裕一】ミャンマー議会は28日、アウン・サン・スー・チー国家顧問の側近、ウィン・ミン前下院議長(66)を次期大統領に選出した。現政権発足2周年となる30日、議会で宣誓式を行う。健康問題を理由に辞任したティン・チョー前大統領の後任に就く。スー・チー氏が新大統領にどのような役回りを与えるのかは不明だが、実力者の登用でスー・チー氏への権力集中が修正される可能性もある。
「操り人形」ともいわれたティン・チョー氏と異なり、ウィン・ミン氏は議会運営で腕を振るった実力者だ。2年前の国民民主連盟(NLD)政権発足とともに下院議長に就任。租税法や投資法といった重要法案の審議を差配した。法案の提出者や質問者には入念な用意を求め、準備不足であれば相手が閣僚でも叱責した。
スー・チー氏には外国籍の家族がいるため、憲法の規定で大統領に就任できない。前大統領に求めたのは、法的に不安定なスー・チー氏の権威が確立するまで、政権運営に一切口を挟まないことだった。
ウィン・ミン氏もスー・チー氏の忠実な側近である点は変わらないが、政権内での大統領の役割は変化する可能性が高い。スー・チー氏に集中していた政策決定権を、段階的に大統領に移す可能性もある。
あるNLD所属議員は「2020年の総選挙後にウィン・ミン氏がスー・チー氏の権限を引き継ぐこともあり得る」と話す。ミャンマー政治を研究する京都大学の中西嘉宏准教授も、スー・チー氏の後継者となる可能性について「現時点では言い切れないが、候補者になったとみていい」と指摘する。一方、政府関係者は「ウィン・ミン氏は気が短く、国軍といさかいを起こす恐れがある」と懸念している。
ウィン・ミン氏はヤンゴン大学卒業後、法律家の道を歩んだ。1988年からの民主化運動に参加し、軍政下で複数回投獄された。2012年の補選にスー・チー氏とともに出馬し下院議員となった。娘の結婚式で贈答品を断るなど、清廉な人物とされる。
ミャンマーの大統領は、軍人議員を除く下院と上院、両院の25%を持つ軍人議員の3つの議員グループからそれぞれ選出された3人の副大統領から、両院議員全員の投票で選ぶ。
28日の投票ではウィン・ミン氏が全636票のうち403票を獲得した。国軍出身のミン・スエ副大統領は、野党の連邦団結発展党や軍人議員の計211票を得た。