米の対中制裁5~6兆円に 知財侵害で関税25%
【ワシントン=河浪武史】トランプ米政権は22日、中国による知的財産権の侵害を理由に、500億~600億ドル(5.2兆~6.3兆円)相当の同国製品に高関税を課す制裁措置を正式に表明した。大統領権限で強力に貿易制限をかける「通商法301条」を発動し、情報通信機器や機械など約1300品目を対象に25%の関税を課す。中国は強く反発しており、米中間の貿易摩擦は緊張の度合いを増してきた。
トランプ大統領は22日、米通商代表部(USTR)に中国の知財侵害に制裁関税を課すよう指示する大統領令に署名した。トランプ氏は「途方もない額の知財侵害に遭ってきた」と中国を批判。年3000億ドルを超える対中貿易赤字のうち、1000億ドルを削減するよう中国政府に求めたことも明らかにした。
知財侵害と認定したのは(1)米企業が中国進出時に技術移転を強要される(2)技術獲得を目的に中国当局の主導で米企業を買収する(3)サイバー攻撃で米企業の事業情報を得る――などだ。USTRは米経済の被害額を年500億ドルと断定した。
USTRは15日以内に制裁関税を課す中国製品のリストを作成する。約1300品目を想定しており、リスト公表後に30日間かけて米企業などから意見を募り、対象を最終確定する。制裁関税の発動までに2カ月近くかかるとの見方がある。
ホワイトハウス高官は22日、記者団に制裁対象の製品は、知財侵害の被害額と同規模の500億ドルと説明したが、トランプ大統領はその後に「600億ドルになるだろう」と述べた。USTRによると、対象製品に情報通信機器や航空宇宙機器などが含まれるという。
トランプ氏は22日、同時に米財務省に中国企業の対米投資を制限するよう指示した。同省は60日以内に具体策を決める。中国の政府系企業などが最新技術の確保を狙って米国企業を買収するのを避ける狙いがある。
トランプ氏はさらに、中国の知財侵害を世界貿易機関(WTO)に提訴するよう要求した。ただ、これまでもWTO提訴を繰り返したが成果が上がっておらず、同氏は「WTOには巨額の資金を拠出してきたが、我々にとって大きな不幸だった」と厳しく批判。政権は米国の独自法で制裁関税を課す通商法301条の発動を優先する考えだ。
通商法301条は1980年代の日米貿易摩擦時にも、日本に市場開放で譲歩を迫る材料として繰り返し使われた。ただ一方的な貿易制限を禁じるWTOルールに抵触する可能性が高く、歴代米政権は95年のWTO発足後は発動を控えていた。
トランプ氏は貿易赤字の削減を選挙公約に掲げており、中国製品の関税引き上げという実力行使に打って出た。同氏は支持率低迷に焦りを強めており、強硬的な通商政策で政権浮揚を狙う。ただ、中国の報復措置を招けば米経済の打撃は避けられず、トランプ政権にとって大きな賭けとなる。