英、ロシア外交官23人追放 元スパイ暗殺未遂事件巡り
国際包囲網を演出、ロシアに圧力 効果には疑問も
【ロンドン=小滝麻理子】英南部で起きた元ロシア情報機関員の暗殺未遂事件を巡り、英国のメイ首相は14日、23人のロシア外交官追放などを柱とする制裁措置を発表した。メイ氏は「ロシアの攻撃に国際社会とともに立ち向かう」と強調し、強く批判。関与を否定するロシア側は反発を強めており、ロシアと西側諸国の関係が一段と悪化するのは避けられない。
メイ氏が同日、国家安全保障会議を開催後に議会で明らかにした。制裁には、23人のロシア外交官の1週間以内の国外追放や、6月開幕のサッカーワールドカップ(W杯)ロシア大会への英王室メンバー・政府要人の派遣中止、閣僚・高官レベルの外交中断など、幅広い措置を盛り込んだ。
メイ氏は追放の対象となった23人は表向きはロシアの外交官を名乗るが、同国の情報機関員だと説明。過去30年で最大の国外追放措置となる。
メイ氏は対ロシアで「英国は単独ではない」と繰り返し強調。メイ氏は2014年のロシアによるウクライナのクリミア半島併合や最近のサイバー攻撃などを念頭に「これはロシアによる欧州全体への攻撃のいつものパターンだ」と批判した。
メイ氏は14日までにトランプ米大統領やメルケル独首相、マクロン仏大統領らと相次ぎ電話で会談し、連携を確認。国連安全保障理事会の緊急会合も要請した。英国の要請を受け、国連安保理は14日午後(日本時間15日早朝)に緊急会合を開いた。
北大西洋条約機構(NATO)加盟国代表でつくる北大西洋理事会も14日、英南部でのロシアの元情報機関員への神経剤による襲撃を巡って、英国が進める調査を支持するとの声明を発表。ロシア側に英国への情報提供に応じるよう求めた。
英国は今回の事件をロシアによる「西側全体への攻撃」と位置づけることで、欧米主要国が一丸となってプーチン政権に歯止めをかける構図に持ち込みたい考えだ。ただ、どこまで効果的な包囲網づくりを進められるかは不透明感が残る。
EUのトゥスク大統領は14日、「我々はロシアによるものと思われる残虐な行為に英国と団結して向かう」と述べ、22~23日のEU首脳会議で議題として取り上げると表明した。EUはクリミア併合以降、対ロ経済制裁を続けているが、EU加盟国内には「効果が乏しい」などとして制裁拡大に慎重論がある。
カギを握る米国が英国の制裁に追随するかどうかも不明だ。トランプ氏はロシアとの不透明な関係を巡る疑惑「ロシアゲート」など、自らも火種を抱える。英国内では今回の制裁を評価する声が大勢だが「結果的に英国が孤立するのではないか」と懸念する声もある。
事件は4日に英南部ソールズベリーで発生。ロシアの元スパイで、英にも協力していたセルゲイ・スクリパリ氏(66)とその娘(33)が意識不明の重体で見つかった。
英政府は犯行にロシアが開発した猛毒の神経剤が使われ、ロシアが関与した可能性が極めて高いと結論づけた。英政府はロシアに13日中の説明を求めたが、ロシアは繰り返し関与を否定し、説明を拒否した。