ホーキング氏、難病と闘いながら真理追究
(評伝)
死去したスティーブン・ホーキング博士は宇宙誕生やブラックホールについての理論で真理を追究する一方、一般向けに宇宙論を平易に語る親しみのある存在でもあった。最近は人工知能(AI)の危険性に警鐘を鳴らすなど、その発言には多くの人々が関心を寄せていた。
学生時代に発表したブラックホールの理論研究で世界的に名を知られるようになった。かつてニュートンもその地位にあった英ケンブリッジ大学ルーカス教授職を1979年から30年務めた。
最大の業績は、巨大な重力であらゆるものを飲み込むブラックホールがエネルギーを吐き出しながら次第に消滅するという「ホーキング放射」理論だ。ほかにも、宇宙誕生の瞬間には特別な条件が不要で、その前後を物理理論で説明できるとする「無境界仮説」など革新的な理論を提唱した。宇宙を読み解くのに「神は必要ない」などと発言し、宗教指導者らから反発されたこともある。
学生時代に神経の難病である筋萎縮性軸索硬化症(ALS)を発症したが第一線で研究を続け、公の場でも車イスと、合成音声による意思伝達装置を使って活動した。
難病を抱えながらエネルギッシュに活動する天才物理学者の姿は、学問の世界を超えて共感をよんだ。88年に出版した「ホーキング、宇宙を語る」は世界で1000万部を超えるベストセラーになった。2014年には、半生が映画化された。
晩年も活動意欲は衰えず、16年には地球から最も近い恒星系に超小型探査機を送る米起業家などによる「ブレイクスルー・スターショット」プロジェクトに名前を連ねた。最近はAIの将来について「AIが独自の意思を持ち文明を破壊する可能性がある」などと警鐘を鳴らしていた。(編集委員 吉川和輝)