ぶれぬ方針と覚悟 平昌五輪に学ぶ代表強化策
ラグビー7人制日本代表のスタッフとともに平昌五輪を視察した。2020年東京五輪の準備を進めるにあたり、五輪がどのような大会であるかをスタッフに認識してもらいたかったからだ。
五輪の特徴として、ある種の「不自由さ」がある。他の国際スポーツイベントと比べて多くの競技や国が参加するため、参加できるスタッフの数は厳しく制限される。各代表チームにとってはその中でどのように準備し、いかに選手に力を発揮させるかが問われる。
7人制の男女日本代表は東京五輪のシミュレーションをこれまで何度もしてきた。2017年夏には五輪の試合会場となる味の素スタジアム(東京都)の近隣で合宿を実施。宿舎からの移動距離や1日のスケジュールを本番と同じ状態で練習した。今年5月にも同様の予行演習を行う。
平昌の視察もこうした準備の一環だった。大会の運営や雰囲気をスタッフに感じてもらえたという点では効果は大きかった。ただ、最大の驚きは、私自身の気持ちの変化だったかもしれない。
それは、試合会場や、日本選手団の支援拠点「ハイパフォーマンス・サポートセンター」に入ったときだ。頭によみがえったのは16年リオデジャネイロ五輪で味わった思いだった。
男子代表が4位に終わり、あと一歩でメダルを取れなかった悔しさ。女子代表に力を発揮させてあげられず、10位に終わった情けなさ。
その思いを日々忘れないようにしてきた。選手にも「ニュージーランドのような強豪との試合を想定して練習しよう」といつも言ってきた。それからまだ1年半しかたっていないのに、悔しさが薄れかけていた。やはり五輪と同じ雰囲気を味わえるのは五輪しかない。
今回は私を含めてスタッフ6人が平昌五輪を視察したが、選手を連れていかなかったことを後悔している。リオで感じた感情をもう一度、思い起こす機会をつくるべきだった。東京五輪までの2年間、代わりになる機会を少しでも多くつくらなければならない。
■五輪が他の大会と違う理由は…
五輪が他の大会と違う理由は何なのか。ずっと考えているが、答えは出ていない。選手の数や施設の規模だけでいえば、冬季五輪は夏季五輪を大きく下回り、夏季アジア大会と同規模である。しかし、平昌にも五輪独特の雰囲気はあった。その理由を早く言語化しなければと考えている。
平昌五輪の前には、いくつかの競技の強化担当者にも話を聞きにいった。特に印象的だったのがスピードスケートだ。今大会は「金」3つを含むメダル6個を獲得。メダルなしに終わったソチ五輪から躍進した。その理由は大きく4つに分けられると思う。
1つ目は代表チームの活動拠点をつくったこと。2つ目は代表としての活動日数を増やしたことだ。今回のチームが長野や北海道に拠点を置き、平昌五輪まで「年間300日」の強化を行ったことはメディアでもよく報じられた。
3つ目は世界トップの指導者の採用である。オランダ人のヨハン・デビットコーチは選手へのアプローチや、モチベーションを高めることが得意。その結果、選手がより自分たちでスケートについて考えるようになったという。
4つ目は他競技の要素を取り入れたこと。スケーティングだけでなく、自転車など陸の上でのトレーニングを多く取り入れた。ストレングス・アンド・コンディショニングと呼ばれる体づくりも重視。毎回のトレーニングを大切にするため、五輪の20日前になっても練習量をあまり落としていないとのことだった。
スピードスケートのこうした強化策は特殊なものではない。代表強化を担う「ハイパフォーマンス」と呼ばれる組織の原則は、競技にかかわらず共通している。
私が以前ゼネラルマネジャーを務めたラグビー15人制日本代表では、宮崎市に拠点を置いて年間200日の合宿・遠征を実施。エディー・ジョーンズ氏ら世界最高峰のコーチ陣を集め、陸上や格闘技のトレーニングも行った。現在、私が総監督をしている7人制の男女日本代表でも同じ方針で強化を進めている。
スピードスケートが素晴らしいのは、こうした強化を4年間やりきったことだ。コーチだけでなく、日本スケート連盟の覚悟があったからこそ可能だったのだろう。現在はフェンシングやレスリングといった国内の他の個人競技も同じ方向性を取っている。
■団体競技に共通の難しい課題
逆に懸念していることもある。日本の団体競技の強化は徐々に難しくなってきているのではないか。個人競技と違い、選手は所属チームでの試合に多く出場する。国内のスケジュールが過密化している競技もあり、代表選手を長期間集めることは難しい。国内リーグのレベルも海外のトップと比べると落ちる。
代表の活動日数をどうやって確保し、選手にレベルの高い試合をどれだけ多く経験してもらうか。団体競技に共通する、難しい課題である。
ラグビーの場合、他競技よりはまだ恵まれている。16年からスーパーラグビーに日本チームのサンウルブズが参戦。日本代表の選手はスーパーラグビーを年間16試合以上戦う。さらに強豪、中堅国の代表チームとのテストマッチも年間6~7試合ある。
それでもさらに上を目指すなら、現状の環境ではまだ足りない。日本代表が新たな大会に参加して強豪国との対戦を増やすなど、構造的な変化が必要になってくる。日本の団体競技に適した強化の原則も早く見つけ出さないといけない。
(ラグビー7人制日本代表総監督 岩渕健輔)