車載機器、モジュール化に注力
パナソニック100年 次の成長を描く(3)
パナソニックは米テスラなどと組み、車載用リチウムイオン電池を成長の柱に育てようとしている。2017年1月には米ネバダ州にテスラの電気自動車(EV)用の電池を生産する工場「ギガファクトリー」を稼働させた。オートモーティブ&インダストリアルシステムズ(AIS)社の伊藤好生社長は「(車載用リチウムイオン電池の)市場成長についていく」と、車載機器の投資や技術開発に注力する考えを示した。
――巨額投資をしているリチウムイオン電池事業が、テスラの新型EV「モデル3」の量産のずれ込みで収益化が遅れそうです。
「テスラとはいままでサプライヤー(部品供給会社)と顧客という関係だった。しかし、今回の生産立ち上げの遅れがあって、『耳障りな話』も含めて投資判断を議論できる健全な関係になれたらいい」
「テスラが自動車の電動化のトップランナーであることは間違いない。リチウムイオン電池への投資が巨額なことは事実だが、市場成長についていけなかったらイノベーティブ(革新的)な事業体にはなれない。ただ、無尽蔵に投資を続けていくのは賢いやり方ではないと思う」
――17年12月にトヨタ自動車との協業検討を発表しました。他社との協業はどう進めていきますか。
「自動車業界でテスラは挑戦者なのに対し、トヨタはチャンピオン。車載電池ではテスラ『一本足打法』と言われてきたものの、トヨタとの協業でリスク分散ができて、好意的な見方も出てくるだろう」
「車載電池の市場規模はとても大きく、成長スピードも速い。搭載対象も乗用車だけでなく商用車やトラック、二輪車など多岐にわたるため、とてもパナソニック1社だけが占有できる市場ではない。あれもこれもではなく、あれかこれかと(収益性を保てる分野を)選択していく」
――世界最大の自動車市場である中国で、EVなど新エネルギー車(NEV)の生産を義務付ける「NEV規制」が19年に始まります。
「自動車メーカーの戦略によるが、台数規制に対して大手がすべてをEVにすることは無理だろう。EVとハイブリッド車(HV)では必要な電池容量が2ケタも違い、電池工場の供給能力が足りなくなるからだ。自動車に対する環境規制は大きく分けると台数と燃費の2つがある。燃費規制をクリアすることだけを考えれば、HV用の電池も選択肢として増えてくるだろう」
――今後はどのように稼いでいきますか。
「例えば、高性能なセンサーをつくっても、単品では使えない。別の部品と組み合わせて使える形にしてから供給しなければならない。すべてのシステム設計を自前でできる自動車メーカーはほとんどない。ある1つの機能を満たしたモジュールやユニットのようにして提供したほうが使いやすい。パナソニックならそれができる」
――米ラスベガスで開催された家電見本市「CES」で、小型EV向けプラットフォームの開発を発表しました。
「既存の自動車メーカー向けというよりも、用途を特定した専用車向けのイメージだ。自前でシステムを開発できない中国やインドの新興EVメーカーを中心に想定している」
――津賀一宏社長はポートフォリオ改革を強調しています。AIS社の事業ではどう考えていますか。
「ユニット単位で競合相手と比較できないようなデバイスが切り離しの対象になりうる。車載機器でも他社との違いを出せない製品なら、ビジネスを続けることに固執する必要もない。ポートフォリオの組み替えを適時やっていく必要がある。逆もそうだ。自前で持たずに補完する必要があれば、協業やM&A(合併・買収)をすることも考えていく」
AIS社は車載分野で2022年3月期に売上高2兆5000億円と、17年3月期の2倍に増やす計画を掲げる。だが、車載用リチウムイオン電池市場は韓国・中国勢とのシェア争いが激しく、トップ争いを続けられるか不透明感も漂う。性能差が縮まれば、かつて敗れたプラズマテレビのように価格競争に陥る可能性がある。
気になるのは世界シェアの推移だ。パナソニックは首位を走っているものの、中国勢が相次ぎ大型投資をしており、18年度には2位の寧徳時代新能源科技(CATL)が肉薄するとみられる。世界の自動車メーカーが一斉にEVにカジを切ると、すべての需要に対応しきれない。
もう1つが中国の「ホワイトリスト」。これは中国政府が公認した電池メーカーの一覧表のことを指しており、基準を満たさない場合はNEV規制の対象外になる。中国政府の公認が得られなければ、将来の成長戦略の見直しを迫られることになる。
(大阪経済部 千葉大史)
[日経産業新聞2018年3月12日付]