SXSW、街中がテクノロジーの「提案の場」に変身
米テキサス州オースティンで9日から開催中の「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)」。各国のスタートアップ企業がプレゼンをしたり、人工知能(AI)などテクノロジーと社会の関係性にまつわる約2000のテーマについて参加者たちが議論したりしている。それに合わせ、ダウンタウンの店舗や家屋も企業などの展示スペースに変身する。にぎわう街中を歩いた。
「AIと勝負してみましょう」。ダウンタウンの一角、古い映画館のように装飾された建物に入ると1台のゲーム機が置いてあった。画面に映されたクルマの車種を4択で当てる遊びだ。「フォードのF150」「現代自動車のソナタ」。クルマのロゴや特徴のあるパーツからサクサクと車種を特定していくAIに全くかなわない。
これは米金融機関のキャピタル・ワン・ファイナンシャルが設けたスペース。後ろを振り向くとクルマの模型がずらりと並んでおり、先ほどのAIを使ったアプリを試すことができる。模型を撮影すると、同じ車種を近隣で販売している中古車販売店と価格情報が一覧で表れる仕組みだ。「今年中には形にしたい」と担当者は話す。
AIは倫理や労働への影響、新たな芸術表現などと絡めて、SXSWでも数多くの議論されたトピックだ。ピッチ大会には、人の格好を画像で解析し「貧血で倒れている」といった体調の推測に生かすスタートアップ企業が参加し、投資家らの関心を呼んでいた。
AIと並んで話題になっているのがAR(拡張現実)とVR(仮想現実)だ。SXSWはもともと音楽や映画の祭典として始まったのもあり、映像制作やジャーナリズムにどう生かすかといった議論が盛んだった。
街中でも数多くのVRを見かけた。例えば米デル・テクノロジーズは屋外の会場に多くのハンモックを設置。VRゴーグルをかぶって寝そべると、そこはさざ波の音が聞こえるリゾート地だ。記者らが試した日はオースティンがセ氏30度と暑くリゾートの雰囲気に浸りきれない面はあったが、ご愛嬌(あいきょう)だろう。米ケーブルテレビのHBOはドラマ「シリコンバレー」の新シリーズが始まるのに合わせて、架空のスタートアップ企業パイド・パイパーのオフィスをVRで見せていた。
日本企業ではパナソニックやソニーが建物を使った展示をしていた。パナソニックは新規事業として構想している、温度センサーなどを使った味噌づくりキットや犬用の歯ブラシなどを紹介。参加した社員は「完成している製品ではないけれど来場者の反応をたくさん聞いてみたい」と話していた。米グーグル傘下ユーチューブなど、映像にかかわる企業の展示も目立った。
SXSWはコンベンションセンターを使って開かれる「CES」やモーターショーなどの見本市と異なり、ダウンタウン全体を使ってセッションが同時多発的に開かれるのが特徴だ。プログラムの変更もしょっちゅうで11日には急きょ、テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が登壇した。SXSWに乗じた「裏イベント」などもそこかしこで開かれている。
「スピーカーや参加者が創造性を刺激しあうことこそが音楽関係者の小さな勉強会として始まった頃から変わらないSXSWの醍醐味だ」と主催者のヒュー・フォレスト氏は言う。祭典は18日まで続く。(オースティン=佐藤浩実、清水石珠実)